竹島、核ミサイルと自衛権 ~ 昭和29年法制局長官答弁

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昭和29年03月15日 衆議院 外務委員会
[253]
自由党(自由民主党) 佐々木盛雄
今竹島の話が出ましたが、現にこの間も2、3回竹島に韓国人が不法上陸をしておる。明らかにこれは領土権に対する侵害だと思いますが、そういうように領土が他国によって侵略を受けた場合には自衛隊を出動せしめる、かようなことは自衛権の範囲内において当然のことであると私は思うのでありますが、もう一回私は確認しておきます。

[254]
政府委員(法制局長官) 佐藤達夫
竹島の事態ということを、私ははっきり事実を確認しておりませんから、それにかかわらずに一般に申し上げますと、日本の領土と明らかにわかっておるところに攻め込んで来るということは、これは当然侵略でございますから、それを迎え撃つということは、自衛権の当然の発動である、これははっきり申し上げられると思います。

[255]
自由党(自由民主党) 佐々木盛雄
わかりました。それでかりに竹島が侵略されるという場合におきましては、自衛権を発動されることが合憲の範囲で可能である、こういう答弁である。私はもとよりだと思う。それでなかったら何のために自衛隊をつくったかわからない。当然のことである。

私はさらにそれに関連いたしましてもう少し前進して承りたい。先ほど申し上げたように、李承晩ラインの中において日本の漁船何100隻というものが集団的にやられているのですが、これが不法な射撃をこうむり、射殺を受けている。これも明らかに自衛権の範囲内において、今度できる自衛隊というものを出動させて、そしてその武力を行使することは可能である。もしそれができないとなったならば、高い税金を払ってどうしてこういうものをつくらなければならないかわからないのである。それをもできないとはおっしゃらない。しかも国民は重大な関心を持って今度の自衛隊というものを真剣に考えているのですから、あまりに妙な過去の行きがかりにのみとらわれてしまって、自縄自縛になってしまって、手も足も出ないというようなことに――私は曲げて法律を解釈しろとは申しませんが、法の解釈につきましても、私はあまり卑屈な考えではなくして、将来の緊急事態に備え得ることのできるような解釈を政府当局がやっておいていただきたい、かように考えるわけであります。

その点についてもう一度申し上げますが、たとえば日本の漁船が集団的に射撃をされる、砲撃を加えられる、拿捕される、撃沈されるという事態が起ったときに、私は自衛権の範囲内においてこの自衛隊を出動させることが可能である、かように考えるわけですが、いかがですか。

[256]
政府委員(法制局長官) 佐藤達夫
ただいまの漁民の関係の事例は、先ほども触れたのでありますけれども、この場合国としての自衛権という考えよりは、むしろ自衛行動といいますか、あるいは正当防衛権といいますか、と言った方があるいは正確かと思いますが、要するにそういう不法な急迫した侵害を日本の船が受けたという場合には、国家としてそれを防止すべき当然の責務があるわけでありますから、それを実力をもって排撃することは、正当防衛権の発動として当然容認せられるところである、かよう考えます。

[257]
自由党(自由民主党) 佐々木盛雄
私はそれはもとより当然の解釈であると思いますし、同時にそういう解釈をとられることによって、国民は初めて自衛隊の存在価値というものを認識すると思います。もし自衛隊が、かりに集団的に日本の漁船が不法攻撃を受けておりながら、しかも手も足も出たかったら、一体何のために自衛隊をつくったかということになる。当然のことであると思います。当然のことでありますが、かような見解を政府当局が明らかにされたことは今日までこれが初めてである。私はそういう意味におきましては、これは大いに注目すべきことだと思っております。

そこで私はさらに承りますが、先ほど北さんも自衛行動というものにつきましておっしゃってておったようでありますが、今日の近代戦争の性格と申しますか、従ってその中から出て参ります国防、そういうものの性格から申しますと、自衛行動、自衛権ということにつきましても、単なる消極的な、日本の領土内に侵略攻撃が加えられたときに初めてということばかりではなくして、日本の領上外から加えられる侵略もあり得るわけです。

現に何とか原子砲と申しますか、原子力を利用した長距離の大砲のようなものがあることは皆さん御承知の通りであります。これは日本の領海外の公海から、あるいはもっと遠いところから日本に向って発射をして来るということも可能でありますし、またたとえば朝鮮の基地から日本に向って原子兵器を利用して攻撃を加えて来るということも可能なことである。

これは今までのような保安隊の考え方や、軍隊というものは鉄砲をかついだ兵隊さんという古い考え方を持った人には理解できないかもわかりませんが、近代戦争というものはまったく性格を一変しております関係上、かなり遠隔の地から、日本の領土外のところから加えられることがあることは当然のことであります。

そういう場合におきまして、こちらからそれに対しての先制攻撃を加える、あるいはそういう地域に対して、出動する、こういうようなことも自衛権の範囲内において当然認められることである、私はかように考えるわけでありますが、現実の問題として、たとえば外国の軍隊が日本の領土の中に上ってしまって、そうしてそこで今言う近代兵器を使って大きな戦闘行為が行われたときには、今日の日本においてはめちゃめちゃになってしまうと思う。あるいは日本の領空の上へ入って来たときに、初めてそこで日本が立ち上ったのではどうにもならないわけであります。さような点から考えますと、自衛権というものは、一国の領土もしくは領海あるいは領空の中においてのみあり得ることであって、それを越えたところには自衛権はないという考え方は、今日におきましてはそれを訂正しなければならぬのじゃないか、こういうふうに私は考える。特に原子力の時代においては、私は近代戦争の性格からかように考えるわけでありますが、いかがでありましょうか。

[258]
政府委員(法制局長官) 佐藤達夫
先ほど北委員が攻撃防禦とかいう言葉を使われましたが、攻撃防禦は問題ないとして、先制攻撃だとかいろいろ防禦に関する言葉があるわけであります。先制攻撃だとか、あるいは攻撃防禦というふうな言葉は、私はいろいろ誤解を持つと思いますからそういう言葉は一切使いません。厳格な自衛権の範囲の中の問題として考えまして申し上げるわけでありますが、たとえばヨーロッパあたりの陸接国境で隣同士密接しておるというふうな国々の間で、自衛権の発動がどうして行われるだろうかということを考えますと、これは論理上当然のことでありますけれども、その国の国境を完全に守ろうということは、国境から一歩外に出なければその国の完全なる自衛はできないということになるわけであります。これは論理上そうだと思います。

ところが日本の場合におきましては、幸いにして周囲に海がありまして、公海をめぐらしておるということから、公海自由の原則という先ほどのお話もありましたように、そういう切迫した場面が実は出ないことが多いだろうと言えると思います。ただ、今お話のように、向うの長距離砲で向うの沿岸かちこちちを攻撃して来るという場合に、どうしてもそれをとめなければ日本の自衛が全うできないという場合には、ちょうど今のヨーロッパの陸接国境のような場面がそこに出て来るわけであります。その攻撃をとめるのにどうしても必要やむを得ない手段としてその根元をとめるという実力作用は、厳格な自衛権の範囲の中に入るものと考えなければならないというふうに考えます。

[259]
自由党(自由民主党) 佐々木盛雄
私はそういう解釈をされるのが近代においては当然だと思う。ただいま領土の問題につきましてははっきりわかりましたが、たとえば空の場合につきましても同じことが言える、この点についてはいかがでありますか。

たとえば朝鮮なら朝鮮――朝鮮のことを言う必要は、ございませんが、たとえばある外国の基地から、今おっしゃったと同じような攻撃が加えられて来るというような場合におきまして、空の面からも根元をつくというようなことは、当然私は自衛権の範囲内において可能なことだと、かように考えるわけですが、いかがですか。

[260]
政府委員(法制局長官) 佐藤達夫
先ほど申しましたような大原則というものは抽象的に申し上げ得ますけれども、さて空の場合はどうだ、あの場合はどうだということになりますと、軍事上の知識は私全然持ち合せておりませんし、個々の場合について、どの程度々々というお答えをすることは実は不可能であります。先ほど申しましたような根本原則によって厳格な自衛権の範囲で行動するほかないと申し上げるにとどめざるを得ないのであります。

[261]
委員長 上塚司
岡崎外務大臣から朝鮮問題について一言発言を求められておりますから許します。

[262]
外務大臣 岡崎勝男
先ほど李承晩ラインや竹島問題について、法制局長官の法律な見解をおただしになったのでありますが、法制局長官は純粋に法律的見解を述べられたのであります。これと、政府が政治的考慮をもっていかなる措置をとるかということは別問題でありまして、法律上可能であっても、政治的にそういう措置はとらぬ場合もしばしばあるわけであります。



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