軍事アナリスト 小川和久 3

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平成13年10月13日 衆議院 国際テロリズムの防止及び我が国の協力支援活動等に関する特別委員会
[004]
参考人(軍事アナリスト) 小川和久
御紹介いただきました小川でございます。軍事問題の専門家の立場から、今回の同時多発テロ、そしてこれを受けた我が国の行動について、若干の考えを述べさせていただきたいと思います。

実は、今非常に奇妙な感じでこの部屋に入ってきたのですが、先月4日、山形へ向かう山形新幹線の中で加藤委員長とばったりお目にかかりまして、とにかく日本の安全保障、危機管理というのは、幼稚園でいうと年少組のレベルのまま推移している、このままでは専門家としては座視できないので、とにかく政治が力を発揮していただきたいということを実はお願いしたその直後に、1週間後にこの同時多発テロだったわけです。ですから、何かの因縁かなという思いでここに立たせていただいているわけでございます。

実は、私ども軍事専門家の間では、このような形の戦争が21世紀において国際的な重要な課題になるだろうということは半ば常識となっておりました。これは、1980年代の初めごろからであります。東西冷戦の構造が崩れる中で、そのたがで締めつけられていた民族対立あるいは宗教対立などが噴き出す。そして、弱き者はテロ、ゲリラという格好で強き者に立ち向かう。これは、1つの戦争のあり方であります。

これをどのような形でなくしていくのか、これが恐らく日本の平和主義にとっても一番問われるところであろうと思うんですね。

しかし、そんなことを知識として持っていた私でございますけれども、やはりワールド・トレード・センターにハイジャック機が突っ込むさまを見て、実は言葉を失ったんです。そして、簡単にでき、しかも、テロリストの立場から見るとこんなに破壊的な効果の大きい戦術というものが目の前に展開されている、その恐怖におののいたわけであります。

これをどうやって封殺していくのか。これは恐らく、日本の立場を超えて国民がみずからの問題として考えなければいけないことだろうと思ったんですね。

例えば、最初は、高度な操縦技術がなければああいう飛行機の飛ばし方はできないとかいうコメントもいろいろな専門家から出ました。ただ、少なくとも、自衛隊の末端にいて、飛行機の世界に今友人がたくさんいる立場から言いますと、あれはハイジャックに成功しさえすればできる話なんです。

パイロットは乗客の人命第一ですから、そして自爆するなんて思っておりませんから、もう言うがままに飛ぶんですよ、最後のところまで。そして、例えばワールド・トレード・センターが数キロ先に見えてきたら、パイロットをどかす、あるいは殺害をする、後は操縦桿を握っていればそのまま行くんです。

それは、報道機関の中には、あれは45度で傾いて突っ込んだからビルの構造まで研究したという。まあ、そうかもしれない、しかしそうじゃないかもしれない。その証拠に、水平飛行のまま突っ込んだビルも同じように崩壊しているじゃないですか。だから、いろいろな違ったことを書かないと我々の商売成り立たないわけでございますので、それはそれで参考にしたい。

あるいは、ワシントンのペンタゴンの5階建ての低層ビルに大型機でアプローチするのは難しいという。でも、現にフライト・データ・レコーダーの中身を見りゃわかるじゃないですか。1回低空で飛び抜けて、急旋回したやつがどんと当たった。私がハイジャッカーだったら、パイロットに、ペンタゴンの連中に目に物見せてやりたいから低空で飛び抜けろと言いますよ。そうすると、自爆するなんて思っていないから、飛び抜けてくれますよ。それで、旋回して、再度、ファイナルアプローチに入ったときに操縦桿を奪えばいいんです。

ノープロブレム。しかもあれだけの破壊効果、これをどうやってとめるのか。

だから、これは後で必要があればお話をいたしますが、危機管理の基本、これを終わることなく、エンドレスとも思われるような息の長い営みとしてずっと続けていくこと、その中でしかこういったテロというものはなくならない。

同じテロといいましても、今報道機関が大きく取り上げておりますが、フロリダとそれからニューヨークにおける炭疽菌の問題、これだってそうですよ。

私自身は、生物化学兵器の専門家じゃないけれども、少なくとも日本の消防、警察、自衛隊が第一線で持たなきゃいけない生物化学兵器ハンドブックというものを翻訳した人間でございます。これは、今消防庁などは、消防庁長官の指示で第一線がみんな持つようになっている。でも、それなんかを見ますと、やはり私どもの研究がすごくおくれているというのは随所に見られるわけであります。

ただ、その中で炭疽菌について言いますと、これ、すごく長く生きるんですよ。今回のやつも、50年ぐらい前にアイオワ州の大学の研究室から出た株らしいということですが、いや、50年も生きているのかというんですけれども、その生物化学兵器ハンドブックを見ますと、第一次大戦中に捕虜になったドイツ人将校、ドイツ軍の将校が持っていたものを連合軍が押収した。それが1997年の時点で生きていたというんだから。これは兵器にしちゃうと1週間ぐらいで死ぬそうでありますが、我々は、やはりきちっとそれを認識して、その恐ろしさに対処しなきゃいけないということなんです。

そういうものを目の当たりにしながら、私は、この事態に対して我々はどうすべきかと思ったんですが、最初の段階で、残念ながら、我が政府の意思の表明というものは若干当事者意識に欠けるだろうと私は思った。これは国家意思の表明ですからね。国として、世界に向いてどういう行動をとるかという話。それは、例えば、アメリカに対して支援をするとか協力をするという言葉が前に出ちゃったでしょう。何ば言いよっとかという話なんですね。熊本弁で言いまして済みません。でも本当ですよ。

私たちは、2つの意味であの事件については当事者なんです。

1つは、日本の平和主義というもの、これは、21世紀最大のテーマである国際テロを撲滅していくためにどうしていくかという責任が問われる立場じゃないですか。その意味でも、やはり行動しなきゃいけない立場であります。これが日本の平和主義の実現であります。

いま1つは、我が国の国民が、24人という方が命をねらわれた。そういう意味でも、やはり当事者としての自覚を持たなきゃいけない。協力をする、支援するというのは、国家意思の表明としては、これは人ごとの話ですよ。だめだということは政府首脳にも申し上げた。

その流れの中で私が申し上げたのは、ですから、少なくとも容疑者、容疑組織があぶり出されて国際的な裁きの場に引き出されるまでは、少なくとも日本は、アメリカだけじゃなくて、国際社会と主体的に共同行動すべき立場である。その後は、それぞれの考え方で動くということもあるでしょう。でも、その段階までは、少なくとも我々は最大の力を発揮できなきゃいけない。一番難しいとされている自衛隊の派遣についても、憲法の枠内できちんと役割分担ができるようにしなきゃいけない。この問題を迅速に、しかも最大限やるためには、これまでの、同盟関係に関する議論の延長線上ではだめだ。だから、新しい法律できちっとくくって、周辺諸国も心配しないような形で行動する。当然ながら、同盟関係に関する議論は、これも正面からきちんと議論していけばいい。その辺をやりましょうという話で申し上げたことがあります。

それで、現在の流れは大筋そういう方向になっておりますので、私としては、今度は中身を詰める番だと思っているんですが、やはり2つの点で非常に懸念がございます。

1つは、自衛隊の行動に関して、これは政治家の先生方も勉強は随分していらっしゃいますが、やはりもうちょっと考え方を整理する必要があるし、官僚機構もやはり知識に欠けるところがある、認識に欠けるところがある。その結果、自衛隊を出しても、隊員を危険にさらすばかりで、十分な任務の達成ができないというような現実が目の前にある。これは、少なくとも、例えばPKOなどに自衛隊を派遣するに当たっても、基本的な構想がないということが浮き彫りになっている問題であります。だから、その辺をどうしていくかという問題。

それからもう1つは、国内の危機管理の問題であります。

我々は、今回のテロ事件においての重要な当事者である。

しかも、相手の立場で見ると、日本は、今回のテロがあろうとなかろうと、アメリカの最重要な同盟国でございます。日本国がなければ、アメリカの覇権というものは、これは確立できないぐらいの立場でございます。

それは客観的な事実としてあるし、そうであればこそ、ソ連、ロシアの時代を通じて1997年まで、あの国の核弾頭をつけたミサイルは日本列島に照準を合わせていたじゃないですか。デンバー・サミットでエリツィン大統領が照準を外すと言って初めて、それは、そういう心配が一応ない時代になった。まあ、照準というのはすぐ戻せますけれどもね、戻せば。

だからそれは、アメリカと事を構える場合、日本列島を核で吹き飛ばす必要がある場合もあるからねらうわけであります。そこで、我々が持たなきゃいけない当事者意識というのは明らかなんですよ。

だから、今回、テロリストグループの立場から見ても、日本は、世界と共同行動をとっているという立場から見てもやはりターゲットになり得る、我々は少なくともテロをやられないだけの抑止力を備えていることを見せつけなきゃいけない、そういった立場なんです。そのために、やはり政治は行動し、税金を使わなきゃいけない。これは、党派を超えてきちんとやらなきゃいけない話なんです。

ただ、この国会周辺、総理官邸の周辺をテロリストの目でいつも僕は見て歩いているんですけれども、警察官のたたずまいを見ただけで、ああ、これはテロ対策なんかない国だとわかります。警察官が命がけでやっているということは僕は評価しますが、その警察官、このままだったら、あっという間に殺されちゃうんですよ。だから、やはりハイレベルの能力を備えているということが伝わるようなことはやっておかなきゃいけないだろうと思っています。

これは駆け足で、あと3分ぐらいでばっと今の話をいたしますが、例えば自衛隊を派遣するに当たって、武器をどうするかとか、武器使用についてどうするかとかいう問題はありますが、少なくとも、難民の救援などに自衛隊を出す場合でも、例えば、タリバン勢力というのは大した軍事力は持っていないんですよ。しかし、それが例えば難民キャンプに迫っているという情報が入って、難民を保護しながら若干撤退しなきゃいけないという状況が出てきた場合、どうするんですか。外務省の役人たちなんか、もう自分でチャリンコで行って、何か怖いやつがいたら、くるっとUターンしてぱっと逃げればいいと思っているらしい。

しかし、軍事組織の行動というのは、そんな軽いものじゃないんです。非常に鈍重なんです、特に陸上部隊というのは。これは、自衛隊の中でも陸海空でまだ認識が一致していない。海上自衛隊、出港準備した船だったら、乗り物に乗っているからばっと出られると思っている。だから陸上自衛隊は重いと言うけれども、おまえら何言っているんだという話をするんですね。もうちょっと勉強しようよというので、今度、19日にやるんですよ、防衛庁の中で。

例えば、アメリカの陸軍の師団だって、普通の師団が動員命令が出てから戦場で戦闘加入するまで、マニュアルどおりにいったって30日かかるのだから、重い。しかも、難民を抱えて下がらなきゃいけないということになりますと、遅滞行動という言葉が必要になるのですよ。つまり、迫ってくる敵に対して、少なくとも重迫撃砲でどんどん撃ち込んで、足どめをかけながらじりじり下がるということは最低限できなきゃだめなんです。でも、このぐらいの遅滞行動ができるぐらいの装備品を持っていたって、正規軍同士の戦闘には加入できないんですよ。

だから、そこのところできちっと線を引けば、憲法の枠内で、例えばPKFに自衛隊の普通科連隊を出して、国際的にも日本の果たすべき役割をきちっと全うするということはできるという議論はあり得るわけであります。

私自身は、必要があれば後でお話しいたしますが、PKFに関しても日本モデルというものが憲法の枠内で実現し得る。これは、防衛庁の中心的な課長さん方とも話をし、自衛隊の高級幹部たちとも話をし、多分これで国際的にも国内的にも大丈夫だろうけれども、問題は、あとは政治だなと。内閣法制局の方々がきちっと理解をしてくだされば、あとは政治がそれをクリアすればできるだろう。

これは逆に言いますと、日本は国際的な貢献をしていないじゃないかという外圧によって、いきなり憲法を侵犯しないための歯どめでもあるのですよ。悪法は法なんて言い方をすると怒られるけれども、憲法の完成度を高めなきゃいけないという問題はいっぱいあるわけです。この憲法が足かせになって何もできないということじゃだめだし、しかし、憲法に問題があるからといって、がっと外圧に押されてこれを侵すようなことがあれば、自国の憲法も守れない信用ならない国となりますから、その面から我々は国益を損ねるわけであります。

だから、やはりそういった歯どめにもなるような形で1つの自衛隊の派遣のあり方というものを、PKFということも念頭に入れながら考え、今回のテロ対策にも活用していただきたい。

それから、危機管理の中でテロ対策ということでいいますと、昨年の九州・沖縄サミットの時点で線を引きますと、現在どうかという問題は社会的責任があるから言いませんよ、テロリストに手口を教える。アメリカでいうと国会議員は口が軽いということになっているから、日本の国会議員はそういうことはないと思うけれども、いろいろ問題になりました。

ただ、やはりこれは、去年の九州・沖縄サミットの時点でいうと、本当に幼稚園年少組。警察は、日本の警察はいい点いっぱいあるのですよ、しかし、テロ対策についてはもう本当に無知。自分たちが国際的に見ても全然役割を果たせないということについての自覚がない、そこが問題である。これは、警察庁の上層部には全部言いましたよ。自衛隊もテロ対策はだめなんです。ただ、それを自覚しているところはかわいい。そこら辺の違いなんです。

でも、それをはっきりして、まず、国会、皇居の警備も含めて、順番でいえばやはり警察なんですよ。これはいいのです。だから、野中さんが講演で、警察がだめみたいじゃないかとおっしゃるから、だめなんですよというのが私の意見ですよ。ただ、だめだということを自覚して、警察の能力を上げてやるということをやらないと、自衛隊をどうしたってしようがない。そこに、やはり警察力じゃ対抗できないような事態がありますので、それはタイムラグが生じない格好で能力を上げた自衛隊がカバーできるようにしていく。

だから、とにかく皇居や国会の周りに迷彩服が立っていれば戒厳令みたいだ、そのイメージはわかります。そうならないようにするというのがその前の段階ですから、そういったことは、やはり政治がきちっと議論をしていただければ一気に実現できる話であります。これが日本の平和主義を実現する営みの1つであるということで今回の議論を進めていただければ、これにまさる幸せはございません。

どうも御清聴ありがとうございました。(拍手)



[015]
自由民主党 亀井善之
このテロの問題、先ほどもお話しいただきましたが、富士銀行の木川さんのところでは12名の方、あるいはまた現地の方々が犠牲に遭われておる、このようなお話をちょうだいし、本当に心からお見舞いを申し上げ、このテロの問題、いろいろお話も伺いましたが、私は、何よりも我が国も当事者であるということをやはりしっかり考えていかなければならないのではなかろうか。多くの日本人が犠牲になったわけでもありますし、あのようにまだ6000人もの方が行方不明、こういうようなことでありまして、私どもは当事者として、自由主義あるいは民主主義、さらには市場経済、これらに対する大きな挑戦でありますので、国際的な連帯のもとに我が国の努力をいたしていかなければならない、このように考えておるところであります。

そのような意味合いにおきまして、こうして御協力をいただき、国会審議をさらに充実させていただく。そして、早期にこれらの対策をしっかりつくっていく。その法案をつくるためにこうして御出席をいただく。また、先般来、新聞やマスコミ等々も、こうして休日にもこのような国会審議をする、このことは国民の皆さん方からも大変期待をされておるわけであります。早期に私たちはこれを成立させて、実行のためになお一層努力をしてまいりたい、こう思っております。

そこで、小川参考人にお伺いしたいわけでありますけれども、基本計画の問題につきまして、国会報告、こういうことで今いろいろ審議をしておるわけでありますが、この点につきまして、事前承認、こういう考え方もあるわけであります。このことにつきましての小川参考人のお考えをお聞かせいただければ、このように思います。よろしくお願いいたします。

[016]
参考人(軍事アナリスト) 小川和久
御質問ありがとうございました。小川でございます。

事前承認の問題というのは、シビリアンコントロールからいっても、基本的に重視すべきことだと思います。しかし実際に、迅速に必要な行動をしなければいけないという場合に、それがどれぐらい可能であるかという問題が常に問われる。事前承認が得られるか得られないかということについての議論がそれこそ神学論争的に繰り返される中で、事態に対して責任を果たすことができないということになりますと、これはまさしくその角度から日本の国益を損ねるということになります。

ですから、私は、先ほど国際法の専門家の参考人の先生がおっしゃいましたように、やはり戦時における法律のあり方というものを明確にしながら、この国会がきちんとシビリアンコントロールを行うための制度を定めていく、そのきっかけとして今回の法律をしていくことが望ましいと思っております。どうもありがとうございました。



[033]
公明党 上田勇
まず初めに小川先生にお伺いをいたしますけれども、今回のこのテロ事件、その前後を通じての我が国の情報というんですか、インテリジェンスの能力というようなことについてちょっとお伺いをしたいと思うんです。

私は、外交の情報というのは非常に重要なかなめの1つであるというふうに思っておりまして、世界でどういうことが起きているのか、それを的確に、どういうことを意味しているのかを分析する、そういう能力というのが非常に重要だというふうに思うんですけれども、どうも今回、テロ事件が発生した前後から見てみると、アメリカとかヨーロッパ諸国に比べて随分と日本のそういう情報の収集あるいは分析の能力というのが、何かおくれているなというのが正直な印象でありまして、全部アメリカとかヨーロッパの情報を教えてもらっていて、しかも国内にあると、今度は省庁間の壁が、垣根が高くて、それもまたさらに能力を低下させているようなことになっているんじゃないのかなというのが正直な印象なんです。

これは実は、本当はよくわかっているんだけれどもそれを知らんぷりをしているという高等戦術なのかどうかわかりませんけれども、その辺の、先生のそういう専門的な見方から、1つは我が国のインテリジェンスの能力についての評価、それから何をどういうふうによくするところがあるのか、あるとすれば、御提案があれば御意見を伺いたいというふうに思います。よろしくお願いいたします。

[034]
参考人(軍事アナリスト) 小川和久
御質問ありがとうございました。

情報の問題というのは、実は、世界の情報専門家の間での共通認識というところから考えていくといいと思いますね。

情報というものは、それをとりに行った人間のレベルに応じたものしか手に入らない。だから、どこかの企業情報でも、新入社員が相手の会社の情報をとりに行って一生懸命やっても、やはり新入社員のレベルのものしか手に入らないんです。ただ、やはり、こちらの社長が乗り出していって、向こうのオーナー経営者と会って、肝胆相照らすようになって一晩語り明かせば、普通だったら金積んでも教えてくれないような成功の秘訣だって教えてくれることもあり得る。

だから、やはり情報をとりに行くときには、我が方が客観的に見てどのレベルにあるかということを自覚して出ていかないことには、手に入るべき情報も手に入らない。猫に小判みたいなことになりかねないわけであります。

そういったことでいいますと、我が国はまず情報を語る資格がない。何か。情報機関がないから、そんなことじゃないんです。情報機関の大もとをなす国際的に通用するシンクタンクがないじゃないですか。

CIAだって、旧ソ連のKGBだって、工作、謀略をやる部門はもちろんある。これが悪名高いわけですが、一番大もとは、巨大な、レベルの高いシンクタンクですよ。それから、やはり自分の国の安全、あるいは世界の安全のために必要な地域研究などを積み重ねている。そういったものがあって初めて世界の情報を入手できる基盤ができるわけであります。

だから、例えば我が方でも、形の上では情報機関めいたものはありますよ。でも、そこの人たちは、例えば警察官僚の人がどんどん上がっていってポストにつく、それで、私は普通の人が入れないCIAに招待してもらいました、だから何だというのだという話でしょう。君らがそんなことをやって出張旅費を使ってきたって全然我が方の情報収集能力は高まっていないじゃないか、税金泥棒じゃないかという話ですよ。だから、情報をとりに行くためにはどういったものが必要かということから考えていかなければいけない。

私は、日本の場合、情報機関をいきなり持つなんというのは、これはもう国内の議論にもなじまないし、大体日本人は危機管理能力は全然ないですから、下手にそういったものを持てば、今は使っちゃいけない言葉なので言いませんが、何とかに刃物という感じになりかねない。だから、やはり謀略、工作の部門などを除いた高度なシンクタンク、できれば透明性を持たせたシンクタンクを持ち、それを、小さく産んで大きく育てるという言葉がありますが、例えば内閣府などに設置して、それに例えば危機管理についての研究をする部門などを附属させ、日本のあらゆる危機に対する頭脳システム、司令部機能を持たせていくというあり方から始めていくというのが現実的ではないかなと思っております。

これにおいて1つ参考になるのは、情報機関とは全く別ですが、アメリカの連邦の緊急事態管理庁、FEMAというのがありますね。ああいったものを小型版でもいいからスタートさせるということなどは、非常に現実的ではないかなと思ったりいたしております。

ちょっとお答えになったかどうかわかりませんが、ありがとうございました。

[035]
公明党 上田勇
ありがとうございます。

次に、今度のこのテロ対策の特措法の内容について、今、国会の事前承認、承認が必要かどうかということが大きな論点にもなっておりますので、きょうも小川先生、それから浜谷先生からもその点についての論及がございまして、それぞれ御意見を伺ったわけでありますけれども、ぜひ両先生にちょっと御意見をお伺いしたいのですが、私は、以前、ある本で読んだこと、また、先日もちょっとアメリカの国防総省の関係者の方々からお話を伺った中で、ベトナム戦争の教訓の1つとして、議会とかあるいは行政官といわゆる軍隊、軍人の役割が非常に混乱して、お互いが違うところまで口を出すようになったことが大変混乱の原因になったというふうなお話がありました。

それは、本来は政治家あるいは行政官というのは、政治目的、目標あるいは戦略といったことをきっちりと明確にし、実際にそれを運用するときの要員であるとか作戦行動とか装備品だとか、そういったものは専門家に任せるべきじゃないかというような話も実は伺ったことがあるのです。

そうすると、今回、国会の事前承認といったことを、これはどうなるかわかりませんが、もしそれを前提と考えるとすれば、私がお話を伺った方の意見をもとにすれば、そういう混乱の原因にもなりかねないのではないかというふうにも考えられるのですけれども、その辺、いわゆる政治家、行政官、それと軍人、軍事の専門家のそういう意味での役割の明確化、そういったことについて、ぜひ小川先生、それから浜谷先生も、それぞれ御意見を伺えればというふうに思います。

[037]
参考人(軍事アナリスト) 小川和久
御質問ありがとうございました。

専門家などの役割分担の明確化という角度から若干お話をしたいと思いますが、日本と比べてアメリカというのは、民主主義のシステムというのはやはり成熟した面があります。ですから、納税者あるいは国民の代表としての、例えば議会であるとかジャーナリズムであるとかアカデミズム、シンクタンクが高度な専門家集団を持ち、政府とチェック・アンド・バランスの関係でうまく国を動かしていっているという面は確かにあるんです、日本よりは。それでもベトナム戦争において混乱が生じたというのは、1つには政治家の関与がよい形にならなかったという問題だと思うんですね。それを日本に置きかえて考えますと、やはりアメリカのことを語る以前の段階でございます。

例えば、政治家の先生方が勉強するに当たって当てにするのは、例えば官僚であります。大変優秀な人たちがそろっている。それから、例えば軍事であると自衛隊制服組であります。ただ、両方に欠けている能力があり、それを補うためにどうしたらいいかという議論をしないとだめなんです。

例えば、防衛庁内局の中心的な課長さんたちとしゃべっていて、僕も専門家の端くれですからかなり突っ込んだ話になる。ただ、やはり、あるレベルで線を引くと、軍事知識がない官僚が95%という言い方が向こうから出てくるぐらいなんです。これは高める努力をしなきゃいけない。広い視野は持っています。大変優秀です。

じゃ、自衛隊制服組はどうか。私と同い年の人間は、もう方面総監で次は陸幕長というところにおります。米軍で一番をとった人間もおります。狭い専門分野について深い知識を持った人間はいっぱいいるんです。ただ、広く見ながら、それをどう国民に問題提起していくかというような立場がまずない。そして、プレゼンテーションの能力なんか全然訓練を受けていない。だから、海上警備行動発動のとき、統幕議長をここに呼んできたけれども、あいつは何もたもた言っているんだと政治家の方々から批判が出るというのは当たり前なんですよ。きちっと説明する能力を備えていないから。

だからやはり、そこにおいては、どういう立場の人がそういったことをやるかはともかく、ある意味で通訳、ある意味で接着剤になるような専門家をやはり養成して、きちっと国民との間の議論ができるようになる、その部分を政治家の方々が先頭に立ってつくっていただくということが、一つ、遠回りのように見えても正攻法ではないかなと思っています。

日本の場合、政治が関与して何かを混乱させる以前の段階でございます。それは、我々はきちっと現実を見詰めた方がいいと思います。どうも御質問ありがとうございました。



[048]
自由党 中塚一宏
構造改革という言葉がもう今一大ブームになっておりまして、そういった意味では、日本が今回のように海外へ自衛隊を派遣し、米軍を、またイギリス軍を支援するという仕組みになっているのかどうか。だから、本当にそういったことを政府がやりたいというふうに考えるのであれば、まさに安全保障政策においても、構造改革、仕組みを変えていくというための努力をしていかなきゃいかぬのだろうというふうに思うわけでございます。

だから、まずは政府は、今回自衛隊を海外に派遣をするということであれば、やはりこの憲法の解釈というものを変更するべきであろうというふうに私ども考えております。人間があってそれで法律があるわけで、法律があって人間があるわけではありません。しかし、さはさりながら、やはり法治国家でございますので、その辺をなし崩しにしては政治にはならないだろうというふうに考えております。

そこで、小川参考人にお伺いをしたいのですけれども、軍事アナリストというお立場から、実務面でこの集団的自衛権の行使ということについて。

今のこの特別措置法の中でも、集団的自衛権の行使ができないから武力行使と一体化にならないというようなことがたくさん羅列をしてあるわけですし、また、前方、後方というようなことについても線を引くというふうな仕組みになってしまっておるわけですけれども、ここは専門家のお立場として、やはりこれは、もし派遣をするのであればという場合なんですけれども、集団的自衛権というものが行使できないという抑制を取っ払った方が有効な協力というものが、またそして、自衛官自身の身の安全ということも守りやすいのではないかというふうに思うわけですが、御意見、いかがでございましょうか。

[049]
参考人(軍事アナリスト) 小川和久
御質問ありがとうございました。

私自身は、集団的自衛権の問題については、日本という国が掲げてきた平和主義とか、あるいは外交を国連中心主義でやるといった原理原則に沿うような外交・安全保障構想を描き、それを個々の政策として実行する中で周辺諸国の日本に対する不信感を払拭し、その中で初めて集団的自衛権の行使について万全の体制をとることができるという順番で考えております。

残念ながら、日本というのは、周りの国から見ると凶状持ちでございます。凶状持ちとは何だと言われたので、昔、罪になるようなことをしたと見られているのですよといったような説明をするのですけれども。だから、やはりこれは本当に、時間をかけてじっくりと周辺諸国の不信感がなくなるような外交などをやっていかなきゃいけない。

ただ、それまでの間は、やはり集団的自衛権はあるけれども行使できないなんということを言っていると、これは同盟関係を構築する上で、相手がアメリカであろうと中国であろうと同じなんですけれども、相手から見たら当てにならぬやつだなという話ですから、これはもう我が国の安全にかかわる話でございます、国民の命にかかわる話でございます。だから、私は、これは正面から憲法改正の議論をして、憲法の完成度を、平和憲法の理念を実現すべく高めていく、肉づけをしていくという歩みを進めながら、同時に、やはり集団的自衛権に関する日本なりのモデルを提示して、その範囲内で実行していくということを1つのステップとして置くべきだと思っています。

私自身は、たまたまちょうどアメリカの、当時ブルッキングスの主任研究員であったマイク・モチヅキ氏が同じことを同じときに言ったので、同じようなことを考える人がいるんだなと言って2人でしゃべったのですが、日本国憲法と、それから日米安保条約国連憲章の3者の整合性で読み込み、集団的自衛権の日本モデルというのは描き得るだろうと思っています。

日本国憲法は、国連加盟を否定しておりませんし、当然ながら国連憲章のどの条文をも否定していない。一方、日米安保条約は、第1条、第7条、第10条において国連憲章との関係がうたわれている。当然ながら国連憲章のもとの条約だという意味のことが第1条に書かれているわけであります。そして、国連憲章の対応するところが103条ですね。これは当然ながら、そういった個別の国が結んだ条約に対して国連憲章の方が優越するとなっている。

そこにおいては、集団的自衛権、個別的自衛権を定めた国連憲章第51条の文言について我々はどう向き合うのかという話になってまいります。国際的な平和を実現するために国連の安保理が機能するまでの間という言い方がなされていたと思いますけれども。

であれば、国連安保理が機能した状態とはどういう状態なのかということを明確に定義をし、それが実現したという段階までは日本は集団的自衛権をきちっと行使をする。しかし、その段階では撤収というのは非常に難しいのですが、やはり日本側の軍事行動をとめて、同盟国との間で既に調整しておかなきゃいけないのですが、米軍に対する支援もやめる、そういったことは可能だと思っているのです。

ただ、本来的には、やはり日本という国が普通の、世界の平和に責任を持つ国としてどういう形で実行力を持つかということから入っていきますと、日本の国内でしか通用しない、あるいは与野党間の力関係において生まれてきた議論というのは、いま一度整理をすべきであると思っております。

先ほど来、前田先輩からも、頭に血の上った議論というのは、やはりしない方がいいというお話がありまして、大変適切なアドバイスであると思いますし、私は、この国会の審議そのものが大変冷静で建設的だと思っております。ですから、今回の事態を機に、急がなきゃいけないという思いに駆られる必要はありません。しかし、着実に日本が責任を果たすということで議論を進めていっていただきたいと思います。

どうもありがとうございました。



[070]
保守党 井上喜一
まず、小川参考人にお伺いいたしたいと思います。

今、我々がやるべきことは、テロをいかに防止していくか、あるいはテロをいかに撲滅していくか、こういう課題に真剣に取り組んでいくことだと思うんですね。今国会に提案されておりますテロ防止対策法なり自衛隊法の改正、あるいは海上保安庁法の改正、これはいずれもこれに対応したものだと思うのでありますけれども、全部じゃないと思うんですね。

そこで、日本としてやるべきことはどういうことがあるのか、この提案三法にとらわれることなく、小川参考人の御意見をお伺いいたしたいと思います。

[071]
参考人(軍事アナリスト) 小川和久
御質問ありがとうございました。

私は、軍事問題の専門家だからすぐ軍事力を使えばいいという立場では、逆にないんですね。先ほど冒頭陳述で申し上げましたように、私たちは、21世紀最大の課題であるテロをなくしていくために大変大きな責任を有することである、21世紀ということで見ますと、日本の平和主義というのはそこで尽きるようなところがあると思うんです。そのために、どう主体的に行動するかということが問われている。

だから、例えば、容疑者あるいは容疑組織がだれになるかというのは、これはいろいろな議論がありますが、洗い出されていく中で、その人たちを国際的な裁きの場に引き出す、そういったことについては、国際的な共同行動をとるということがあって、その活動の中に自衛隊も含まれてくるという話なんですね。これが新法でくくるという話なんですが、本来的に国家の安全と繁栄を実現していくためには、そういう具体的なあり方、あるいは今起きた出来事に対するあり方とは別に、本当にエンドレスとも思えるような営みをしなきゃいけない。

これは、先ほど来ペシャワールでずっと活動してこられた中村先生もおっしゃっていましたように、やはりテロの根っこをなくすために我々は何をするかという話が一番大もとなんです。だから、私は、医学に例えて公衆衛生学的アプローチというのが一番基本だよということを言っているのですね。

だから、例えばイスラム世界の原理主義によるテロであれば、やはり根っこにある南北問題、貧困というものをなくすためにどうしていくのか、あるいは民族対立、それから宗教対立、血で血を洗うような歴史を、それこそ2000年の歴史をさかのぼって、やはりその過去の克服をどうやっていくのか、そこに日本はどのようにかかわることができるのか、そういったことをやらなきゃいけない。

また、イスラム原理主義といってもいろいろな組織があって、温度差もある。アメリカに対するまなざしもそれぞれ違うし、日本に対するまなざしも違う。それをきちんと研究をして、それぞれに対する処方せんを描けるだけの力をつけ、医学でいうと、これは予防医学的アプローチと僕は言っていますけれども、新しい特効薬を探さなきゃいけない、それを実行していく、そういったものが同時になきゃいけないのですね。

だから、中村参考人がおっしゃったように、難民を出さないようにする、あるいはお互いにぎすぎすしないように、心が和み合うようなことができていなければ何を言ってもだめだというのは、はっきりしております。

ですから、やはり今回の法律の審議に当たりましても、そういったことを視野に入れながら、我々は、みずからの安全と繁栄だけではなくて、世界の平和のためにどのようなことができるのか、そして、していくべきなのか、そのために我々が持ってきた法律や制度をどうしていくべきか、そういった議論をさらに進めていただければと思っております。

ありがとうございました。



[078]
保守党 井上喜一
そこで、次に小川参考人に再びお伺いするのであります。

お話を聞いておりますと、日本の役所の方とも随分お話をされているようでありますが、危機管理の体制、これは阪神・淡路の大震災以来、かなり整備をされてきたと思うのでありますが、どちらかといったら運用面で危機管理の体制をつくっていくということだと思うのですね。

日本の役所の組織として、こういうような運用面でお互いが連携をして危機管理の体制をつくった方がいいのか、あるいは危機管理法なりテロ対策法といいますか、そういうような法律をつくりまして、もう少し権限を一元化していくとかいうようなことで体制を整備していった方がより的確な危機管理の体制がつくれるのか、あるいはテロの予防対策がつくれるのか、その辺についての御意見をお伺いいたしたいと思います。

[079]
参考人(軍事アナリスト) 小川和久
御質問ありがとうございました。

私は、安全保障問題それから危機管理の専門家の端くれとして、確かに政府の方々ともかなり突っ込んだ話をしてまいりました。

それで、はっきり言いますと、これまでのいろいろな危機において、日本の政府はだめじゃないかというのをかなり厳しく、恐らく一番厳しく批判してきた立場なんです。そういう批判を今度それなりに受けとめて、一緒にやろうと言ってきたのが日本の官僚機構だというのが私の今のかかわり方なんですよ。だから、責任をとらないというのは大変な問題なんですけれども、とにかく、そこで今一つ出ていて私が提案しているのは、先ほどちょっと申し上げましたように、アメリカの緊急事態管理庁、FEMAのような、司令塔組織のようなものを小さくてもいいからつくっていくということについても、法律から入るのではない、既存の官僚組織から入るのではない。

過去の例えば代表的な危機がありますね。阪神・淡路大震災とか、それから日本海での重油流出事故とかいろいろあります、地下鉄サリン事件とか。そういったものに対して、どういう対応であれば合格点であったかというのは後から書けるのですよ。だったら、その合格点をとるためにどういう組織が必要で、どういう人事が必要で、どういうシステムが必要か、そこから組んでいって、現在の法律の枠内でできるかどうか、そして新しい法律が必要なのかどうか、その辺を考えようということに実はなっているのです。その動きを実は内閣府の中で始めようとした段階で今回のテロが起きてしまって、ちょっとおくれているのですね。

ただ、象徴的なケースを1つだけ、国家機密をばらすようなことを申し上げますと、去年の沖縄サミットの段階で厚生省の医者のチームが、生物化学兵器を使ったテロに対して備えた。僕もちょっとかんでいた。そのときに、サリンを使われたときに首脳たちだけでも助けなければいけないから、解毒剤の硫酸アトロピンを準備した。これは実はアンプルと注射器に分けて入れていたのです。釣り用のベストにつけて待機していた。これはいいのですよ。

ただ、あのときびっくりしたのは、日本で一番テロ対策で意識が進んで知識も持っていた厚生省のドクターたちですら、テロとかあるいは戦場のような場所でサリンの解毒剤、硫酸アトロピンを使うための注射器は自動注射器でなければならないという知識を持っていなかった。

だから、アンプルを割っている間に汚染されて死んでしまうのですよ。

湾岸戦争のときでも、イスラエルの市民は全部、ボールペンぐらいの長さの自動注射器を渡されていて、ぱきっと折ると1.5センチぐらいの針が出る。それを太ももの外側の筋肉に服の上から突き立てる。そうすると、1回当たり0.6ミリグラムの溶液が失神しても注入されるから死なずに済む。ところが、その知識がない。

それで、今度その知識がもたらされたというところで、では、やろうやと。大量に買えば1本100円もしないわけですから。そうしたら今度は、薬事法で自分に注射を打っちゃいけないというのでできないという話でしょう。

むちゃくちゃな国ですよ。

だから、やはり合格点の答案をとるためにはどういうシステムが必要なのかから入っていって、そこで法律という格好で立法府が力を振るっていただくというのがすごく望ましい方向ではないかと思っております。

ありがとうございました。



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