海上保安庁巡視船事件簿 1/3 ~ へくら銃撃、さど銃撃連行、のしろ銃撃船長連行、ちくご連行

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昭和28年07月15日 参議院 本会議
[025]
日本社会党(社会民主党) 松浦清一
私は、本月12日の朝、竹島周辺の海域におきまして海上保安庁の巡視船が韓国漁船から射撃を受けた事件に関連をいたしまして、この事件の真相、竹島が我が国の領土であることの実証、及びこのよろな事件の起る原因、日韓会談の経過、日本の漁業に及ぼす影響等につきまして、緊急に関係大臣の御所見を伺いたいと存じます。

先ず第1にこの事件の真相についてでございますが、海上保安庁を所管される運輸大臣にお尋ねをいたします。私の知る範囲の情報では、本月12日の午前8時頃、海上保安庁の巡視船「へくら」が竹島周辺の海域を巡視中に、韓国旗を掲揚した武装警官の乗船した白色10トン程度の漁船が2隻、青色5トン程度の漁船が1隻、「へくら」に接近をして参りまして、何の警告もなしに射撃をして来たのであります。併しながら、こちらの側では、これに対して何の抵抗もすることもなく逃げて帰つて来たというのでございますが、その事実に間違いはないか、若し間違つておれば、そのときの真相を明らさまにお知らせを願いたいのであります。

若し又これが巡視船ではなくて、日本の漁船が、どの国からも咎められることのない公海で操業中に、本年2月の大邦丸のときのように外国漁船から射撃をされるのを、我がほうの巡視船が目撃をした場合、どのような処置をとるよう現地に対して指示をしてあるのかを併せてお伺いをいたしたいのであります。

第2に、竹島が我が国の領土であるという実証につきまして外務大臣にお伺いをいたしたいと存じます。この島は、日韓併合の前、明治38年2月22日付の島根県告示第43号を以ちまして、島根県隠地郡五箇村の所属に編入をせられ、その後いずれの国からも、この島が日本領土であることに異議の申立を受けたことはないのであります。又、昨日発表されました外務省の見解の中に、終戦後、連台国軍総司令部は、1946年1月29日付の覚書を以ちまして、日本国政府が、竹島に対して政治上又は行政上の権利を停止するよう指示されているが、この覚書は、決して竹島を日本の領土から除外するものではないと言つておりますが、その除外するものでないということは、総司令部からのどのような指令の文意によつて実証されているかを伺いたいのであります。又、マツカーサー・ラインを設定をいたしました総司令部指令は、竹島に対する日本国の統治権を否定するものではないことを明らかにしていると言つておりますが、その明らかにしているということは、指令文の中でどのように表現されているのか、参考のためにお伺いをいたしたいのであります。

又、平和条約の第2条第1項には、「日本国は、朝鮮の独立を承認して、済州島、巨文島及び鬱陵島を含む朝鮮に対するすべての権利、権原及び請求権を放棄する。」と明記してあることは私も承知をいたしております。併しながら韓国側では、昨年1月28日付で、政府が李承晩ラインに対する抗議を行いました際、この抗議に対して、(1)1946年1月29日、総司令部通牒第677号により、竹島の領有権は日本から排除されている。(2)当時のマッカーサー・ラインから見ても、竹島は韓国側に含まれているとの2点を挙げて、竹島が飽くまでも韓国領土であることを主張いたしているのであります。竹島は御承知の通り隠岐島の西北方にあります無人無毛の小さな孤島であります。併しながら、この小さな孤島とは申しましても、元禄の昔から、現在の鬱陵島の領有関係につきましてはたびたび問題が起つたことがございますが、竹島が明治38年、日本領土と確認をされまして以来は、ただの一度も問題になつたことのないこの島が、今になつて問題になるということは、平和条約中の日本の主権排除に関する内容や、向うで勝手にきめた李承晩ラインはともかくとして、マツカーサー・ライン解消の際における総司令部通牒の内容を確認することを怠つておつた結果ではないか、その点、明瞭にお教えを願いたいのであります。

更に又、竹島が明らかに日本の領土であるという歴史的な事実、又、私自身の主観、政府の今日までの態度をそのまま支持をするといたしましても、万一韓国との間に交渉がまとまらなかつた場合は、新聞紙の上では、国連に提訴をするとか、米英に仲介を依頼するとかの政府の意思発表が散見をいたしておりますが、政府としては、何回か取り交わされた口上書とかいうものの交渉で解決する見込があるのかないのか、若しあるとすれば、いつ頃解決するのか、そのお見込を承わつておきたいのであります。又、独立国たる日本の政府が、甚だ失礼ながら、たかが韓国相手の外交折衝ができず、国連や米英に仲介を頼んだ場合、日本の権威や信用はどのようになるのか。この点の質問に対しては、外務大臣は恐らく、相手のあることであるから、その見込は立たないが、できるだけの努力を払つて急速に解決をしたいと、御答弁をされるに違いございません。併し、それなれば私のお尋ねをいたしたいのは、その解決の付くまでの間に、日本の漁船や巡視船などが射撃されるのをどうして防衛をしようとするお考えであるか、外務大臣の管掌外かも知れませんが、そのお考えも、ついでにお伺いをいたしたいのであります。

更に又この機会にお伺いいたしたいのですが、本年2月、済州島沖における大邦丸が射撃され、1人の日本人漁労長が射殺をされたあの事件は、その後一体どうなつているのでございましよう。このような重大事件をいい加減な口上書で以て放任をいたしておくから、第2の事件が起り、第3の屈辱的な事件が起るのだと私は思う。一歩退却二歩前進は兵法上の戦略でありまして、今の政府の外交は、一歩も退却、二歩も退却で、人は殺され、船は取られ、遂には領土の一部まで、もぎ取られようとしている現状であります。国民の目には、韓国における李承晩政権は、その政権を維持するがために、朝鮮自身の休戦にさえ反対をし、国境線を交える隣接国の中では一番弱いと見た日本に勝手放題の攻勢を加えているように見えるのであります。これは日本の外交が拙劣だからでありますか、それとも韓国側が無理なのか、それはどちらでもよろしいから、率直な態度で、正直な御見解を、わかりやすく具体的に承わりたいのであります。

第3に農林大臣にお伺いをいたしますが、それは、日本が承認するしないにかかわりませず、日本漁業にとつては非常に大きな障害となつておりまする李承晩ラインの内外における日本漁船の操業状態であります。本年の4月以来、日韓会談は再開され、漁業に関する日韓政府間の協定が交渉せられつつあるのでありますが、その経過は現在どのようになつているのかをお伺いをいたしたいのであります。日本海但馬地方における漁船は、漁期を前に控えて、その出漁準備を整え、待機をいたしております。若し日本政府の主張が弱く、李承晩ラインが解消されない場合は、この海域を漁場とした1800隻の漁船、この業に従事している3万数千の漁船船員は生業を失い、漁獲高年産22万トン、75億円が吹つ飛び、日本の食糧と経済に及ぼす影響は極めて大きいのであります。農林大臣は、朝鮮海域における日本漁船の操業がいつの日に陽の目を見る見込を立てておられるのか。又そのためにどのような努力をしておられるか。通り一遍の言葉ではなくて、具体的な事実と御計画を承わりたいのであります。

以上、運輸大臣に対しては、海上保安庁巡視船の射撃されたときの真相と今後の具体策。外務大臣に対しては、竹島が日本領土であるという実証、韓国が誤解をしているならば、その誤解をしている原因、今後の対処方針。農林大臣に対しては、日韓会談における漁業協定交渉の経過、朝鮮海域における漁業対策等についてお伺いをいたしましたが、これはいずれも緊急にして且つ極めて重要な問題でありまするから、憂慮いたしている国民のすべてが納得の行きますよう御答弁を要請して、私の質問を終ります。(拍手)

[026]
運輸大臣 石井光次郎
お答えいたします。

竹島は本年の4月末までは日米行政協定による駐留軍の爆撃演習区域でありまして、同島附近には日本の漁船は操業いたしていなかつたのでありますが、去る5月の28日に島根県の水産試験船が調査のために参りましたところ、韓国人の漁夫が30名ばかりそこにおりまして、それで海上保安庁といたしましては、関係機関と協議の上に、でき得る限り紛争を避ける方針の下に、同島附近の海域の哨戒に当ろうということをきめまして、6月の23日、27日の2回に亘つて、巡視船2隻を派遣いたしました。上陸調査をいたしましたところ、韓国人6名がテントを設けてそこにおりましたので、厳重警告をいたしまして、退去を求めたのであります。そうして同時に日本国の領土であるという標柱を立てて参りました。

それから7月の1日、2日、7月の8日、9日というふうに船を出してみたのでありまするが、ここで前に述べました韓国人はすでに退去いたしておりまして、同局及びその周辺には船も人もいなかつたのでございます。

それで、今度問題になりました7月の11日に巡視船の「へくら」を派遣いたしまして、12日の朝5時20分同島に着きまして見ましたところが、韓国の漁船及び漁夫多数が来島しているのを認めましたので、臨検隊を上陸せしめようと準備いたしておりまするときに、6時15分、韓国官憲4名、鬱陵島の警察局の者だということであります。これが来船いたしまして、竹島は韓国の領土であると主張いたしたのであります。当方におきましては、竹島は日本領土である旨を強調いたしまして、退去を要請いたしましたが、譲らなく、とうとう8時に本船は前述の4人の者を帰船せしめまして、同島を一周いたしました上、境港のほうに帰ろうといたしたのでありますが、突然10数発の射撃を受けたのでありますが、人命には異状なく、本船に弾痕2つを残しているのを発見いたしたのであります。

その際の調査によりますると、先般日本側の立てました標柱は撤去されておりまして、来島者は約40名、そのうち警察官が7名と推定されております。船舶は漁船3隻、伝馬船1隻でありまして、武器は漁船1隻に自動小銃2つを装備しておりまして、警察官は拳銃を携帯しておつたのが認められたのであります。

本船は、12日17時30分、境港に帰つて来たというのが実情でございます。先ほど、向うの船から射撃したのではないかというお話でありましたが、射撃は島の中腹から行われたものでありまして、距離は、約700メートルくらいであつたと申します。又、真偽のほどはわかりませんが、これは威嚇の射撃であつたようだということも聞いているのであります。

今後どういうことにするかということのお尋ねでありまするが、これほどうしても外交折衝に待つよりほかないのでございまして、外交折衝をやつてもらう一方、関係機関と協議いたしまして、できるだけ我々の方でも処置をいたして行きたいのでありまするが、実力行使ということは今日までもやつておりませんので、どの程度のことをいたしまするか、実力行使もさまざまありますので、その場に応じての適宜な方法をこれからなお相談いたしたいと思つているのでございます。

それから、公海上等で射撃がありました場合、或いは拿捕等がありました場合には、海上保安庁の船は時を移さず現場に直航いたしまして、そうして話合いで事件を解決するという線に、今までもやつておりましたし、恐らく今後もこれが主な行き方だと思つております。(拍手)

[027]
外務大臣 岡崎勝男
先ず第1点でありますが、竹島が日本の領土である証拠と申しますと、これはもうお話のように史実も明らかにしているのでありまするし、又その後いろいろの司令部等の措置を見ましても、この点は何ら疑惑を持つ点はないのであります。元来、総司令部の指令等は領土の変更などをなすことはできないのでありまして、占領中の一時的の措置を定めたものに過ぎません。又平和条約の中に、日本が権利、権原を放棄するといたしました地域は明瞭に書いてあるのでありまして、それ以外のものは当然日本の領土でありまするし、又いわゆるマツカーサー・ライン等も領土の変更というような根本的な問題を処理することはできないのでありまするから、史実から言いましても、国際法から言いましても、日本の領土であるということは、これは問題のないとこうであります。

なお、この種の交渉を韓国政府といたしますのには、自然長引くのが通例でありまして、お話のように、何を愚図愚図しているのだというような感じも国民の問には出ましようけれども、元来、憲法にも国際紛争解決の手段としては武力を用いないということになつておりますので、我々としても飽くまでも忍耐強く我が方の正当な主張を納得させて、平和的に本問題を解決するつもりでおります。

又大邦丸事件についてのお話がありましたが、大邦丸事件もまだ解決しておりませんときに、更にこの竹島の発砲事件等が起りましたことは、誠に残念な次第でありまするけれども、こういう問題につきましては、我が方としては主張すべきものは飽くまでも強く主張する次第でありまして、この大邦丸とか竹島の問題は、韓国側の史実に対する誤解、国際法的な見解に対する誤解から出たものでありまして、別に、政府の外交が軟弱であつたからとか、強硬であつたからとかいう問題ではないと考えておりまして、我々としては今後とも、韓国側の誤解を正すべく、あらゆる努力をいたす考えでおります。(拍手)

[028]
農林大臣 保利茂
お話の李承晩ラインをめぐつての漁業関係、申すまでもなく我が国にとりましては極めて漁業上重要な地域になつております。併しながら、この問題は日韓会談の漁業部門として外交機関によつて今日まで折衝を続けられて、私どもとしましては、外交機関に強く要請をして、速かにこの妥結線を得られるように外交機関に要請をいたしておりますけれども、今日、只今、外務大臣も言われておりましたように、これらの問題が妥結に至つておりません。非常に残念に存じております。極めて漁場の重要性から申しましても、私どもといたしましてはどうしてもこの問題だけでも早く解決をいたして参りたいということを、外交当局に強く要請をして、その円満な解決を期待しておる次第でございます。(拍手)





昭和28年09月12日 参議院 水産委員会
[033]
説明員(海上保安庁長官) 山口伝
昨日の午前8時から今朝8時までの丸1日間の情報を取りまとめて申上げたいと思います。

先ず巡視船の行動状況でございますが、現在引続き5隻行動中であります、「くさがき」「へくら」「あまくさ」「きくち」「のしろ」、以上450トン型3隻と270トン型2隻でございます。一部今後交代を、第七管区本部とも連絡もいたしまして交代を考えておりますが、この5隻は引続き置いておくつもりであります。なおこれらは漁業監視船の3隻と現地において協力をいたしております。

「あまくさ」が昨日午後2時30分から約2時間、先方の旗艦である705号と接触して会談をやつておりますが、そのときの様子は、先ず李承晩ライン内の操業漁船は飽くまで退去せしめる、抵抗しない限り抑留はしない、巡視船、監視船等に対しましては自由行動を認める、そういう話でありまして、これは従来から申上げておる通りであります。当方からはこれ又同じでありますが、飽くまで連行することがないように申入れておるのでございます。

それから次に漁船の出漁状況でございますが、昨日22時の報告に上りますると、243区、これは李承晩ライン内でありますが、2隻程度が認められる。それから224区、これは李承晩ラインの外側でありますが、ほんのすぐすれすれの所であります、ここらに約100隻程度が操業中であります。それから長崎の五島方面からの情報によりますと、約50隻が出漁したという情報がありますが、詳しいことはわかりません。

それから次に現地における事件発生の模様でありますが、今のところ拿捕はまだございません。11日、即ち昨日の8時から本朝の8時までの間に行われました事故は、臨検が7隻報告されております。これは昨日申上げましたように、第一次的には臨検して再び李承晩ライン内に入らないというような誓約書を取つて一応放しておるわけであります。これはこの次に又入つて参りましたときに、2度目だというので、有無を言わさず連行するという建前のように聞いております。併し、なおそのほかに相当臨検されておるのじやないかと思います。これは以上判明しておるものだけであります。

こういうことによりまして9月に入りましてからの累計は、今朝の8時までの拿捕が3件、うち1件だけはちよつとはつきりしないのでありますが、2件は御承知のように、すでに向うに釈放方その他賠償等の申入をしておることは御承知の通りであります。それから臨検、立退命令を受けたものは、報告のあつたものを累計いたしますと、54隻に達しております。なお該海域には韓国の艦艇は依然として10数隻遊弋を続けておりますし、引続き日本漁船に対して退去措置を講じており、抵抗しない限り不法なことはしないと言つておりますが、事実上同海域内における操業は不可能な状態に相成つております。

なお、各地の出漁状況についてそれぞれ入電がございますが、詳細よくわからないのでございますが、御参考までに拾い読みいたしますと、佐賀県唐津港におきましては、唐津を基地にさば釣漁船が15隻でありますが、10日の日に唐津に入港したものが、唐津の船が1隻、神奈川が2隻、千葉の船が2隻、入港というのは帰つて来たわけであります。11日、昨日帰つて来たのは、神奈川県が2隻、それ以外のものは大体まだ出ておるわけであります。それから佐世保を基地とするもので出漁中のものが20隻、現在同港に入港中のものが30隼、平戸で出漁中のものが4隻、生月が12隻、福岡港が6隻、仙崎が2隻、福岡では滞留中のものが五十隻程度であります。

以上で大体今までの1日の間の情報の御報告を終ります。





昭和28年09月14日 衆議院 水産委員会
[006]
説明員(海上保安庁長官) 山口傳
ただいま水産庁の方から御報告がございましたが、今回の問題について、当該海域における漁船の保護を担当しております海上保安庁といたしまして、事件発生以来の経過の概要を御説明いたしたいと思います。

まず、最初に本年8月までの事件の発生状況でございますが、朝鮮海域におきましては、本年に入りましてから、8月の末、すなわち今回の事件の発生前までに、韓国側によつて拿捕された隻数は4隻でございます。そのうち2隻は帰つて参りましたが、現在のところ2隻未帰還ということになつております。この拿捕のほかに臨検、追跡等に類する事件は、8月末までに計33件発生しておりました。4月から8月までの間の拿捕の事件はございませんで、臨検等の事件がわずかに4件発生しておつたのであります。すなわち本年の4月から8月までの間は、かなり小康を得ておつたと申し上げられるのでございます。

次に国連軍が8月の27日に防衛海域停止の宣言をされましたが、それ以後の状況につきまして御説明をいたします。8月27日に防衛水域の実施が停止されましたことが声明されまして、日本の水産業の発展のために非常に喜んでおりましたところ、韓国政府におきましては、この措置に対しまして国連軍事当局に抗議をいたしまするとともに、いわゆる李ライン水域の保護のために、実力によつて警備するなどの声明をしばしば行つたのであります。海上保安庁といたしましては、同方面に行動中の巡視船に対しまして、厳重なる警戒を指示し、あわせて操業中の日本漁船に対しましても、かような空気のあることを申し伝えて注意を喚起しておつたところでありまするが、9月に入りまして韓国側は、艦艇10数隻により済州島周辺海域の厳重な警備を行いまして、操業中の日本漁船を、ただいま水産庁長官の方からお話がありましたように、李承晩ライン外へ一斉に退去せしめるという措置を講じたのであります。そのために現在、すなわち9月14日午前8時までに海上保安庁に判明いたしておりますもののみ統計をとりますと、9月に入りましてからの拿捕3隻、うち1隻はちよつと不確実でありますが、多分3隻だろうと思います。2隻につきましてははつきりいたしておりまして、先ほどのお話のように、すでにこの件につきましての申入れはいたしてあるわけでありますが、なおそのほかに不確実なるもの1隻あるように思います。そのほかに臨検、退去の警告を受けましたものは59隻に達しておるわけであります。

かような状況に相なりまして、海上保安庁としてとりました措置につきまして以下御説明申し上げます。海上保安庁の従来の当該水域における警備の状況は、所有巡視船の弱勢のために、昨年9月から1隻ないし2隻程度配置しておるのが実情であつたわけであります。すなわち昨年の5月の閣議決定に基きまして、東支那海水域、朝鮮海峡、北方水域、これらに襲撃、拿捕の不詳事件が発生いたしますので、このために日本漁船の保護の意味をもちまして、海上保安庁の巡視船をこれらの水域にそれぞれ警備に出すということになりまして、その決定に基きまして、新鋭の巡視船を、東支那海には常時2隻、このたびの事件を起しました朝鮮海峡方面に1隻ないし2隻、北方に2隻、これらのものを常時該海域にパトロールに出す、いわゆる特別哨戒と申しておりますが、ずつとさような態勢をとつて参つたのであります。これらはもちろん現地においては、水産庁の監視船とも協力して、拿捕その他の事件の発生の未然の防止に努めていたのでありますが、今回の一斉取締りによりまして、拿捕、臨検等の事件が頻発いたしますので、ただちに巡視船を総動員いたしまして、ただいまのところ海上保安庁の巡視船は全部で5隻、水産庁関係は3隻、先ほどお話がありましたように、これらが相協力いたしまして、拿捕及び紛争の防止に努めますとともに、なおもよりの基地に巡視船3隻を即時対応の姿勢で待機させておりまして、今後の事態の推移に備えておるのであります。これらの巡視船は、現場におきまして操業中の日本漁船に対しましては、韓国艦艇の動向等を周知せしめて、拿捕等の危険防止に注意いたしますほか、これらの巡視船のうち、ながら、くさかき、へくら、あまくさ等は、韓国艦艇とも再三接触いたしまして、その都度相手の艦長に対し、いわゆる李承晩ラインは不法なものである、日本漁船に対する退去措置は不当な措置であること、及び正当に操業する日本漁船に対する生命財産を尊重するよう、厳重に申し入れておりますとともに、また臨検や連行途中にある日本漁船の釈放を要求し、これを釈放せしめる等、できる限り直接交渉に努めまして操業の維持に努めておるのであります。一方韓国側は、当初は期限付をもつて日本漁船を拿捕する等の強硬な方針をとつている模様でありましたが、最近の巡視船からの報告によりますと、韓国側は、あくまで日本漁船の李承晩ライン外への退去措置をとるが、漁船が抵抗しない限り、銃砲撃等はいたさない、また拿捕もしないが、但し一回退去命令を受けまして再侵入したものは、抵抗したものとみなして連行する方針の模様であります。その際の証拠にするためと思いますが、退去を警告した漁船からは誓約書をとつている模様であります。また韓国軍艦の艦長は、日本漁船を李承晩ライン外に退去せしめるのは、共産分子の侵入を防止するためであるとも申しております。

次に同方面における出漁の状況についてでありますが、韓国側が一斉に退去措置を講じ始めました9月7日ごろは、同海域内におきましては、300隻以上の日本漁船が操業していたものと思われるのでありますが、これらの退去措置のために続々退避を始めた模様でありまして、巡視船からの情報によりますると、8日の夜は李承晩ライン内に約200隻、9日の夜は100隻、10日の夜は30隻、11の夜はライン内にほとんどなく、ライン外側に約100隻、12日夜はライン内に約30隻、ライン外に約150隻、13日から14日未明にかけましては、ほとんど出漁船の姿を見かけないとの報告が入つておるのであります。これは、昨日来同方面海域の天候が相当悪化しておりまして、12メーターないし15メーターの風が吹いておりまして、漁船は五島列島方面に避難している模様であります。しかしながら韓国艦艇は、依然として10数隻が同方面海域を遊弋して、警備を続行いたしており、退去措置を講じておりますので、同海域内の操業は今後事実上不可能な状態に立至つている状況であります。当庁といたしましては、今後も状況の許す限り、引続き巡視船を行動せしめまして、でき得る限り操業の維持に努めまするとともに、拿捕及び紛争の防止に努力する考えでおります。

なおそのほか海上保安庁としてとりました措置について若干御説明いたします。巡視船に対しましては、韓国艦艇との紛争はでき得る限り避けるよう指示しておりますが、これら艦艇から不法に臨検または退去命令を受けるようなことが予想されますので、かかる場合にはその日時、位置及び理由等を記載し、相手側の艦長から署名をしてもらつた文書を要求するよう指示しております。また操業中の漁船に対しましても、最後までがんばるのでありまするが、最悪の事態に立ち至つた場合には、少くとも巡視船と同様、この点は水産庁とも協議をいたしまして、できる限り同様な措置で、文書によつて証拠書類をとつて来るよう指示をいたしておるのであります。

以上が9月7日以後本日の午前8時までの大体の経過でございます。





昭和28年09月14日 参議院 水産委員会
[002]
説明員(海上保安庁長官) 山口伝
その後海上保安庁は、引続き巡視船5隻を以ちまして済州島方面海域を警戒続行せしめておりますが、水産庁監視船と協力して無論操業の維持に努力いたしますと共に、拿捕及び紛争等の事故防止に努めております。

前回に御報告申上げました以後、即ち12日土曜日の午前8時から14日、即ち本日の午前8時までの2日間に亘ります間の判明いたしました事件は、拿捕されたものはございません。臨検、退去を命ぜられましたものが15隻となつております。以上によりまして、9月中の累計は、拿捕3隻、臨検等59隻ということに相成ります。

9月12日、即ち一昨日でありますが、一昨日の午前6時、現場におきまして韓国軍艦304号艦長と会見しました巡視船「へくら」は、従来通り李承晩ラインは不法なものであり、日本漁船の正当な操業を脅すことのないよう、従来通りの申入を繰返しておるわけでありまするが、相手側は依然として、退去させることは続行する、反抗しない限り武器は使用しないが、1回警告をして再侵入する漁船に対しては、反抗したものとみなして釜山に連行する旨発言をいたしております。従いまして、現在では日本漁船も大半は同海域から待避しまして、李承晩ライン内で操業しているものは至つて少く、巡視船からの種々の報告を総合いたしますと、12日の夜はライン内に約30隻、ライン外に約150隻、翌日の13日の夜から本日、14日の未明にかけましては、低気圧の来襲により荒天のためとも思われますが、ライン内に数隻の操業漁船を認める程度であります。九州各地域におきまして13日12時現在、調査した結果によりますると、漁場にあるものは日本漁船37隻、入港して来たものが16隻、待機いたしておるものが68隻、出港したもの3隻という状況であります。

次に韓国艦艇は依然として同海域内の遊弋を続けておりまして、退去措置を講じておりますので、抵抗しない限り拿捕連行はしないとは言つておりまするが、事実上李承晩ライン内における操業は不可能な状態に立ち至りつつあるわけであります。海上保安庁としましては、今後も引続き水産庁の監視船と相協力して、巡視船は5隻を行動せしめまして操業の維持に努力はしで参ります。でき得る限り拿捕その他の不祥事件の発生防止に努めまする考えでおります。なお、事態の推移に備えまして、最寄りの基地に更に巡視船3隻を待機せしめているのが現況でございます。

以上2日間の大体の経過を御報告申上げます。





昭和29年02月20日 衆議院 予算委員会
[126]
自由党(自由民主党) 山本勝市
情報の伝えるところによりますと、今朝6時ごろに済州島の付近で、わが海上保安庁の監視船「さど丸」が機銃掃射を受けた上に、暴力をもつて拿捕されたということが伝わつておりますが、この際関係当局からその実相をできるだけ詳細に御説明いただきたい。

またこれに対してどのような処置をとられたか、またとろうとしておられるか、これまたそれぞれの関係当局から御説明願いたいと思います。

[127]
説明員(海上保安庁長官) 山口伝
お答えを申し上げます。

巡視船「さど」の連行事件でございますが、巡視船「さど」は、2月16日10時門司を出港いたしまして、済州島西方の特別哨戒に従事いたしておりましたが、今朝6時30分農林漁区294区中ほど、すなわち済州島から見ますと、西南西方約50海里の地点でございますが、その地点におきまして韓国の警備艇P38号、これは韓国の沿岸警備隊の船と思われますが、これより銃撃を受けました。

さらに横づけを要請されて、7時ころ横づけをいたしまして、「さど」の船長並びに機関長は整備艇に移乗して、先方との間に会談をいたしましたが、向うとしては「さど」を連行する旨発言し、種々交渉いたしましたが、翻意をいたしませんで、8時先方の警備艇の乗員7名が「さど」に移乗して参りまして、「さど」の乗組員20名を先方の警備艇に移乗方の要請があつたわけであります。8時2分ごろ「さど」の乗組員に対して向うが後甲板に集合を命じました。そこまでの報告がございまして、それ以来「さど」からの通信は絶えたのであります。

たまたまその付近に当方の巡視船「くさがき」がおりましたが、これはこの通報を受けまするや、ただちに現場へ直航いたしまして、8時15分ちようど先方との間6海里程度の距離に、このわが方の「さど」並びに向うの警備艇を視認いたしました。8時39分「さど」が針路約90度をもつて済州島の方へ向つて連行されつつあるのを現認いたしたわけであります。このくさがきは9時5分、これも小銃2発の射撃を受け妨害を受けましたが、9時15分なおこれに追尾して折衝をいたしましたが、警備艇からは応答がなくて、遂に折衝はこれ以上不可能と認め、9時45分、第七管区海上保安本部長――これは門司に駐在する地方の出先機関の長でありますが、この指令によつて一応現場から離脱いたしたのが、今日まで入つておる報告でございます。「さど」の大きさは450トンであります。本来は新潟の海上保安部の所属でございますが、東支那海の特別哨戒に特別派遣を受けておる船でございます。

これが対策でございまするが、さつそくこの情報を外務省にも入れまして、口頭でまずもつて韓国のミツションに対して厳重なる抗議を申し入れ、船体並びに乗組員の即時釈放等の交渉にかかつていただきました。われわれの方といたしましては、現在の警備の状況は海難が非常に多く、あるいはまた昨今浮流機雷が非常に多くなつておりますが、でき得る限りしぼりまして、現在ではおよそ20隻くらいの巡視船が、交互に5隻程度現場に出て、水産庁の監視船と相提携して、現場の操業の維持並びに安全保護ということに努めておるわけでございます。ごく最近にさらに一段とこの警備を効果あらしめるために、門司の七管区の中に両方の合同本部をつくりまして、民間の対策本部とも随時連絡して、一層の効果を期しておつたやさきに、かような不祥事件が起きたので、まことに遺憾に存じております。以上経過を申し上げました。

[128]
政府委員(外務政務次官) 小滝彬
ただいま海上保安庁の長官から報告がありましたように、外務省の方に連絡がありましたので、今朝11時半に奥村次官が金公使を呼び出しまして、とりあえず「口頭」で厳重な抗議をいたしました。かつ即時釈放を要求したのであります。しかしながらさらに外務省といたしましては、文書をもちまして大臣の書簡で陳謝、即時釈放、損害に対する補償の要求権利を留保する、並びに将来類似事故の発生を防止するよう要求することになつております。

なおこれまでの経験から申しますと、ただ先方に申し入れましても、十分なる効果をあげ得ないというような関係もありまするから、でき得れば他の方法についても考えてみたいと目下検討中でございます。

[129]
改進党 川崎秀二
関連質問……。ただいまの韓国巡視船の「さど」の捕獲ということは、従来の漁船問題でさえ日韓関係に非常に大きな影響を与えておるのにかかわらず、こういう海上保安庁の巡視船までが実力をもつて捕獲をされるというような事態に到達すると、非常に日韓関係について深い憂慮をしなければならぬ段階ではないかと私は考えるのであります。その意味では、わが国は、独立して以来自衛の措置について、国内をあげての最大の問題になり、今までこれが政治の中心問題として国民に関心を持たれておる。

ことに先般の国会において、木村保安庁長官は、中曽根委員の質問に答えて、日本海沿岸における防備態勢は十分か、それは漁船の捕獲などは李ラインを越えた際にときどき起きるだろうけれども、そういうことでなしに、こちらの自衛力に対して自信があるのかというようなことを聞いた際に、木村保安庁長官の答弁は、「お答えいたします。日本の今のフリゲートの乗組員はきわめて志気旺盛でありまして、訓練は非常によく行つておるということだけは、中曽根君に申し上げて御安心を願いたい。」この間約1箇月半ほど前の第二次臨時国会で言つたばかりです。

しかるにここに海上保安庁の巡視船が機銃掃射を受けて実力をもつて拿捕される。しこうしてこれに対して外務省はただ一片の抗議だけしか行えない。しかもそれを救援に行つた「くさがき」とかいう船は、これに対して何ら実力的な保衛手段をとつておらぬ。それであなたこれから先、日本の自衛手段を全うすることができますか。

また私は副総理に、日本の自衛力は非常な危機にさらされておるじやないか、これは見のがすことのできない重大問題として、副総理に私は所信を聞いておきたいと思います。

[130]
国務大臣・内閣総理大臣臨時代理 緒方竹虎
ただいままで私が確かめたところでは、今朝外務次官が金公使を外務省に招致して問いただしました際に、金公使の手元にも何らの情報が入つていない。どういう理由で、日本の保安隊の所属船を拉致いたしたか、まだ分明いたしませんが、いずれにいたしましても、先般来の漁船の問題等に続きまして、こういう事態が頻発することは、将来さらに大きな問題を引起すおそれがあるのであります。政府としても、この際十二分に慎重に考慮いたしたいと考えております。ただちにこれを自衛力の問題と結びつけるのはどうかと思いまするけれども、日本の自衛についても、こういう問題が将来さらに輪をかけて起ることも予想しまして、慎重に考えなければならぬと考えます。





昭和29年02月22日 衆議院 運輸委員会
[002]
説明員(海上保安庁長官) 山口伝
去る土曜日に、海上保安庁所属の巡視船さどが韓国に連行された事件が発生いたしましたので、この問題についての今日までわかつておりまする経過その他につきまして、とりあえず御報告申し上げたいと思います。

まず事件発生までの経過でございまするが、公海で操業中の日本漁船の拿捕防止につきましては、御承知のように昭和27年、すなわち一昨年の5月の閣議決定に基きまして、水産庁と協力して、朝鮮半島周辺及び東支那海方面には、一昨年の9月から巡視船を常時1隻ないし2隻行動せしめて参つたのでありまするが、昨年国連軍によつて設定されました防衛水域の実施が停止されまするや、日本漁船は韓国周辺の海域において相当の出漁を見たのでありまするが、このときに韓国におきましては、艦艇19隻をもつて同海域の警備を強化するに至りました。そのため、日本漁船は臨検、拿捕等の事故が頻発をいたしたのであります。このことは御承知の通りであります。

海上保安庁といたしましては、このような事態に対応いたしまして、昨年の9月以来は、巡視船5隻を同海域に増派いたしまして、常時5隻を現場に出しまして、拿捕及び紛争の防止に努め、また巡視船は随時現地におきまして、韓国の警備艦艇と洋上会談等をいたしまして、直接折衝によつて相手の艦艇に対しまして、いわゆる李承晩ラインの不当性を強調する。一方日本の水産業に対しましては、紛争防止のために適切な措置をとるよう指導して参りました。

しかし実際におきましては、韓国側の方針はきわめて強硬なため、操業中の日本漁船は続々と退避せざるを得ない状況になりました。10月の下旬におきましては、ほとんどライン内では事実上操業ができないような状態に立ち至つたのであります。9月以降今日までに韓国側に臨検されました日本漁船の累計は101隻、拿捕されました日本漁船は43隻に上つたのであります。このほかに水産庁の監視船第二京丸が拿捕されております。11月に至りまして、漁場は当時はあじ、さばのあれでございましたが、その後以西底びきの漁期に入りまして、漸次済州島の西側に漁場が拡大して参りました。韓国としてはその後沿岸警備隊を編成いたしまして、警備を強化する措置をとつて参つたのであります。当年といたしましては、その後の漁場の趨勢にかんがみまして、東支那海方面の警備を厳にいたしまして、済州島の西側に4隻、同じく東側に1隻ないし2隻をもつて、水産庁の監視船と連繋、協力いたしまして、日本漁船の拿捕防止措置を講じて今日に及んだのでございます。

去る2月20日、済州島の西方海並びに東支那海方面におきましては、巡視船くさがきを指揮船として、へくら、さど、こしき、計4隻をもつて行動中であつたのでありますが、このたびのさどの連行事件が発生をいたしたのであります。日時は2月20日午前6時30分、位置は北緯33度15分、東経125度20分、当時の気象並びに海象状況は、北の風、風力2、雲量は6、半晴、うねりは西、もやがかけておりました。海上は平穏でありました。ちようど6時ごろ、レーダーにて左舷7海里に3隻の船形を認め、国籍確認のため接近をいたしました。一時はきわめて感度が良好で、韓国の警備船かまたは300トン型スチール・トロールと思われたのであります。東方は次第に明るさを増しましたが、西の方はガスと月没のため、視界は依然として不良でありました。

次いで6時20分ごろ、左舷のガスの切れ間に航海灯が薄く見えた直後、相手船よりコール・サインの発光信号を受けたのであります。韓国船の公算がありましたが、ホワット・シップ――何船かという確号信号をこちらの方から送りましたところ、返答がなく、相手船は突然銃声をもつてこれに報い、同時にストップ・コールという国際信号を送つて来たのであります。さどはその当時避退する余裕はあつたのでありますが、ほかの2隻は操業中の日本漁船があつたと思われましたので、その2隻のことをおもんばかり、会談を行うことを決意したようであります。

7時ごろから8時ごろまで、韓国海洋警備船金星号船上におきまして、同船長と会談を行つたのであります。そのときの会談の内容で、今日までわかつておりまするところを申し上げますと、さどの船長は、国際法上の慣例に基く公海における航海の自由及び漁業の自由を主張したのでありまするが、警備船船長は、さど船長の主張する国際法上の権利はわかるが、警備船は外国政府の指示で行動いたしており、船長個人の意思ではいかんともしがたいのでさどを連行する、かようにいわゆる平和ラインを固守して譲らないのでありまして、結論を得ないまま、相手は実力をもつてさどを連行すると告げて、遂に実力行動に移つたのであります。

これは済州島に連れて行かれてからの様子でありますが、さどの乗組員は全員さどに乗船のまま軟禁状態で、個人の自由は何ら拘束されない。韓国警備兵約8名が陸上との交通を断ち、さどを警備した由であります。それから当日の午後10時30分に至りまして、さきにさどを拿捕いたしました金星号の船長から釈放の通告を受け、当夜零時に同地を発航いたしまして、本日の午前4時45分に間門港外の六連に到着、次いで8時20分門司に入港をいたしております。

わが方としては、最初さどが不法に連行されつつある報知を受けましたので、さつそく外務省にこの旨を連絡いたし、またアメリカ大使館あるいは極東海軍等にも連絡いたしまして、先方に対して厳重なる抗議をいたしてもらい、即時釈放方を願つたのでありますが、外務省とされては、当日午前中にさつそく金公使を呼ばれて、これが交渉をいたしてもらつたのであります。私どもとしては、かような不祥事件が今後発生するようなことがあつては問題でありますので、今日までわかつている事情のほか、さらに詳細調査をいたしました上で、それによつてさらに韓国に対して将来のため厳重なる文書による抗議をいたしてもらう手はずを、現在外務省と相談いたしております。なお今後の警備につきまして、かような事態が発生するようではいろいろと考えなくてはならぬのでありますが、さらに詳報を持つて、その上で慎重に考慮して至急対策を立てたいと考えております。まことにまずい事件が起つたのでありますが、これらの問題につきまして、委員の方々におかれましても、いろいろと今後に対しての御意見がおありだろうと思いますが、もしおありでありますれば、お聞かせをしていただけたらまことに仕合せに存じます。

以上とりあえず今日までの経過を申し上げ、御報告いだした次第であります。





昭和29年02月22日 参議院 運輸委員会
[002]
説明員(海上保安庁長官) 山口伝
一昨日海上保安庁所属の巡視船「さど」が韓国に不法連行されました事件が起りましたので、その経過並びに対策等につきまして御報告いたしたいと思います。

大体今日の事件発生に至るまでの経過を最初に申上げたいと思います。

公海における操業中の日本漁船の拿捕防止につきましては、一昨年の5月の閣議決定に基きまして、水産庁の監視船と協力いたしまして、朝鮮半島周辺並びに東支那海方面に対しまして、
一昨年の9月から、巡視船を当時といたしまして常時1隻乃至2隻を行動せしめておりましたのでありますが、御承知のように昨年8月国連軍によつて設定されておりました防衛水域の実施が停止されまするや、日本の漁船が韓国の周辺の海域において操業を開始するようになり、この情勢に対し韓国としては艦艇10数隻を以て同海域の警備を強化するに至りまして、そのため日本漁船に対する臨検、拿捕の事件が頻発したのは御案内の通りであります。

海上保安庁はこの事態に対応いたしまして、昨年の9月以降は、全国から巡視船を動員いたしまして、常時この方面に5隻の巡視船を派遣しまして、拿捕並びに紛争の防止に努めて参つたのでありまするが、当時新聞等に出ましたように、巡視船は洋上において韓国の警備艦艇と再三接舷し、直接折衝する等いたして、当時としては相手の艦艇長に対しまして、いわゆる李承晩ラインの不法性を強調する一方、日本の水産業方面に対しましては、紛争防止のため適切な処置をとるよう指導して参つたのでありますが、韓国側の警備方針は極めて強硬で、操業中の日本漁船は続々待避せざるを得なくなつた。10月下旬頃には殆んど操業不可能になつたのであります。で、昨年の9月、いわゆる李承晩ラインがやかましくなりまして以来今日まで、韓国側に臨検されました日本の漁船の累計は101隻に及んでおります。拿捕されました日本漁船は43隻に上つております。なおこのほかに御承知のように水産庁の監視船第二京丸が拿捕されております。

11月に至りまして、漁場は漸次西のほうに移動して、済州島の西側におきまするいわゆる以西底曳が始まつたのでありまするが、韓国としては、その後従来海軍艦艇でありましたのを、沿岸警備隊を編成いたしまして、警備を強化する措置をとつたのであります。それで海上保安庁といたしましては、この12月から今年の4月終りまでが最盛期であるいわゆる以西底曳の漁区に対しまして、東支那海方面の操業状況をも勘案いたしまして、済州島の西側区域に対しまして4隻、同じく東側、これが従来紛争を起しておつた地域であります。これには1隻乃至2隻を以て水産庁の監視船と協力、連繋を強化いたしまして、日本漁船の拿捕防止し措置を講じて今日に及んで参つたのであります。これが大体今日までの経過でありまするが、このたびの事件について御説明申上げます。

一昨日、即ち20日の日に済州島の西方海域並びに東支那海方面においては、海上保安庁の巡視船は「くさがき」を指揮船として「へくら」「さど」「こしき」等5隻を以て行動中であつたのでありますが、丁度当日「さど」が不法連行されるような事態を惹起いたしたのであります。時は朝の午前6時30分、位置は北緯33度15分、東経125度20分、当時の海上の模様は北の風、風力は2、雲量6、半晴でありました。うねりは西、もやがあり、海上は平穏というような条件でありました。

なお、連行されました「さど」の状況を申しますと、午前6時にレーダーにて左舷7浬に3つの船影を認め、これらの国籍確認のために接近いたしました。1隻は極めて感度が良好で、多分韓国警備船であろう、或いは300トン型スチール・トロールと思はれたのでありますが、6時20分、東のほうは次第に明るさを増したのでありますが、西のほうは先ほど申したもや、ガスで月没のため視界は依然不良であつたのであります。6時25分頃左舷のがスの切れ間に航海灯の薄く見えた直後に、相手の船から発火信号を受けたのであります。多分これは韓国船らしいと思つたのでありまするが、こちらから何船であるかという発火信号を送つたのに対して何ら返答がなく、相手船は突然発砲して参つたわけであります。同時にストップ、カムという信号を向うから送つて来ました。「さど」といたしましては避退する余裕はあつたのでありますがほかのレーターに写つておりました2隻は操業中という情報のあつた日本の漁船と思われましたので、これらの2隻のことを慮つて会談を行うことに決意をいたしたのであります。7時頃から8時まで韓国の警備船金星号船上において会談を続いて行なつております。

会談の内容でありますが、「さど」の船長は国際法上の慣例に基く公海における航海の自由並びに漁業の自由という事を主張したのでありまするが、金星号の船長は、「さど」船長の主張する国際法上の権利はわかるが、警備船は、自分としては韓国政府の指示で行動しており、船長個人の意思では如何ともいたし方ないので「さど」を連れて行くのだ。いわゆる平和ラインを固執して譲らない。結論を得ないまま相手は実力を以て「さど」を連行すると告げ、遂に実力を行使して連行の行動に移つたのであります。続いて連れて行かれた所が済州島の済州邑という港でありますが、そこでの取扱の模様は、「さど」の乗組員は全員「さど」に乗船のまま軟禁状態であつたのであります。個人の自由は何ら拘束いたしておりません。韓国の警備兵約8名が陸上との交通を絶つて「さど」を警護しておつた、こういう状態でありましたが、その後の、釈放を受けたことは別に申上げますが、釈放当時の理由としては、韓国政府の指示によるというだけでありまして、別の理由は持つておらないようであります。

それで最初「さど」が不法に連行される、こういう情報を海上保安庁としてはキヤッチいたしましたので、早速土曜日の朝早くから様子を、情報を持つて外務省のほうに行つて、即刻韓国側に対しかような公船を連れて行くなどということは誠に以つて解しかねることであり、即時船員並びに船体の釈放を申入れ、厳重なる抗議をしてもらうという手配をいたしました。なおアメリカ大使館或いは極東海軍等のほうへも様子は連絡をいたして置きました。その後外務省とされては、早速午前中に奥村次官が金公使を外務省に招致されまして、厳重なる抗議をして頂いたのであります。

次いでその後「さど」は土曜日の晩10時30分頃に釈放という知らせを金星号の船長から受けまして、すぐその晩の夜中、午前0時に済州邑を出発しまして、今朝4時45分頃六連に到着し検疫を受けまして8時過ぎに門司に入港いたしております。いろいろ報告はこれまであつたのでありますが、なお不審の点もございますので、今後詳報を得ましてこれらを十分分析をいたしまして、更に韓国に対しましては、その詳細なる調査の結果に基いて将来のため厳重なる抗議を文書によつて出して頂くように外務省とも相談をいたしておるのであります。又今後の警備等につきましても、これらの詳報を待つて慎重に情勢判断をして、今後とも更にいろいろと審理をして行かなければならんと思つております。

以上「さど」の不法連行事件につきまして御説明申上げます。





昭和29年02月22日 参議院 水産委員会
[049]
説明員(海上保安庁長官) 山口伝
一昨日の2月20日に海上保安庁の東支那海に出ております巡視船の「さど」が韓国側に不法連行されました事件が起きましたので、只今わかつております範囲で状況を取りあえず御報告さして頂きたいと思います。

一昨日当時済州島の西方海域並びに東支那海方面において巡視船「くさがき」を指揮船といたしまして「へくら」、「さど」、「こしき」計4隻を以て行動中であつたのであります。巡視船「さど」は20日の午前0時30分農林漁区294、これは済州島の西南西約50海里、おおむね位置は北緯33度17分、東経125度15分、当時こういうことでございます、におきまして突如韓国警備船P38号、韓国の沿岸警備隊所属、トン数は約250トン、装備は13ミリ機銃2門及び小銃、これは後ほど先方の金星号ということがわかつたのでございますが、これから銃撃を受け横付けを要請されました。

7時頃船長は機関長と共に相手の船に移乗いたしまして会談を行いましたところ、先方は「さど」を捕獲する旨を通告したので、種々折衝したが翻意せず、次いで8時頃、相手船即ち金星号の乗組員7名が「さど」に乗り移つて来まして、「さど」の乗組員15名を先方の警備船に移乗せしめ、このため「さど」は8時以後無線の封鎖を受けまして通信は不能、一方この情報を入手いたしました指揮船「くさがき」は、直ちに現場に直行しまして、8時15分「さど」を認めた。レーダーか何かだと思いますが、認めた。8時30分頃、「さど」が済州島に向け連行されつつあるのを確認いたしたのであります。8時47分、「くさがき」は、警備船に横付けをした上、直接交渉を行わんといたしましたが、相手の船は横付けを許さず、9時5分に至るや、威嚇のためと思われますが、小銃2発を発砲して来た。なお「くさがき」は、交渉を断念せず、至近距離、大体400メートルと言つていますが、至近距離が並行しつつ、国際信号、その他の方法を以て種々折衝を試みましたが、相手の船は応答をいたしません。で、折衝不能のため、このような状況報告を受けましたので、9時45分に、門司にある第七管区海上保安部長の指令によつて、これは効果がないと認めたわけでありまして、止むなく、一応「くさがき」は現場を離脱いたしたのであります。

かような報告を受けましたので、私のほうでは、早速内容を、情報を外務省に入れまして、即刻韓国のほうへ、厳重なる抗議と共に、船体並びに乗組員の即時釈放を申入れて頂きました。又水産庁のほうにも御報告するし、或いは又アメリカ大使館等へも情報を入れました。その後早速外務省とされては、同日午前中に、11時頃だつたと思いますが、奥村次官が金公使を呼ばれて厳重なる抗議をし、折衝をして頂いたわけであります。その後情報によりますると、いろいろな新聞、UP電、或いはロイター電にも伝えられましたが、昨日になりまして巡視船から情報が入りました。「さど」は20日の15時15分済州島の済州邑に到着をしてそこで軟禁をされ、同日の夜22時30分、午後の10時半、向うの金星号の船長から釈放の通知を受けて、21日、即ち昨日の午前0時に当地を発港いたしまして今朝4時45分関門港外の六連に着き、そこで検疫を受けまして8時20分門司に入港したのであります。

なお船長から概況を報告して来ておりますので、それを附加えたいと思います。日時は先ほど申上げましたように、一昨日の午前6時30分、位置は北緯33度15分、東経125度20分、5分だけ違います。これは船長からの報告であります。それから当時の海の気象は、北の風で風力は2で、僅かであります。雲量が6、半晴、うねりは西、靄がかかつておつて、海上は平穏、当時の状況は「さど」としましては午前6時にレーダーにて左舷のほう7海里に3隻の船影を見ている。これらの船の国籍確認のために接近をいたしましたところが、1隻は極めて感度が良好で恐らく韓国の警備船か又は300トン型のスチーム・トロールと思われた。6時20分に、東のほうが次第に明るくなつて参つた。西方はガスがかかつていることと、月没のために視界は依然として不良であつた。6時25分頃右舷のガスの切れ間に航海灯が薄く見えた直後、相手の船から国際信号で発火信号を以て何船だという信号を受けたわけであります。その状況によつて、「さど」としては恐らくこれは韓国船じやなかろうかという公算があつたわけでありまするが、こちらからもホワツト・シツプという信号を送つたのに対して返答はしないで、相手の船は突然銃声を以てこれに報いて、同時にストツプ・カムという信号を送つて来たのであります。「さど」はそのとき避退すればするだけの余裕はあつたのでありますが、ほかのレーダーの2隻は操業中の情報があつた日本の漁船と思われましたので、その2隻のことを慮つて会談を行うことに決意したと言つております。

7時頃から8時まで約1時間韓国の金星号船上において同船の船長と会談を行なつたそのときの会談の内容につきまして次のように船長から来ておりまして、「さど」の船長は国際法上の慣例に基いて公海における公海の自由並びに漁業の自由ということを主張しましたが、先方の船長は「さど」船長の主張する国際法上の権利はわかるが、自分たちは韓国政府の指示で行動している、船長個人の意思では如何ともいたしがたいとして、「さど」を連れて行くというので、いわゆる平和ラインを固守して譲らないので、結論を得ないまま8時頃相手は実力を以て「さど」を連行すると告げて、この際15人の人質をとつて遂に連れて行くことになつたのであります。

済州島における取扱状況についてこれ又報告が入つておりますが、「さど」の連れて行かれたところは済州島の済州邑という港であります。「さど」の船員は、「さど」に乗船のまま軟禁状態でありまして、個人の自由は別段拘束されないが、韓国側の警備兵が約8名が陸上との交通を絶つ意味において「さど」を警護しておつた。それから釈放のときの理由につきましては別段申さずに韓国政府の指示によるということのみを告げたようであります。私のほうといたしましては取りあえず外務省を通じて厳重に抗議しその日のぎりぎり一ぱいでありますが、即日釈放の形をとつて一応一段落のようでありますが、そのような不祥事件を今後起されてはかないませんので、なお更に不審の点も詳報を得ましてこれを十分分析研究して改めて韓国に対して文書による厳重なる抗議をいたしてもらうことに外務省と折衝いたしております。やつてもらうことにいたしております。

なおこれらのことに鑑みまして、今後の同方面における警備の方針等につきましても十分考えなくちやならんと思うのでありますが、目下情報を得た上で情勢の分析をいたして、至急考えをまとめたいという状況であります。





昭和29年02月23日 衆議院 水産委員会
[023]
自由党(自由民主党) 遠藤三郎
なお私はこの際一言だけ申し上げておきたいのであります。この法案とも直接、間接に関連があるのでありますが、先般新聞紙の報ずるところによりますと、わが国の巡視船「さど」が拿捕されております。その後韓国ではこの「さど」を釈放したということが新聞に伝えられておりますけれども、このことはきわめて簡単なことのようでありますが、重大な問題だと思います。

日本の巡視船を拿捕するに至りましては、韓国の暴戻言語に絶すると私は思うのであります。どういう事情で拿捕され、またどういう事情で釈放したか、それらの事情を明らかにしなければならぬと思うのであります。

それは同時に漁船の問題にただちに関連をするわけであります。おそらくあの巡視船が拿捕されたことを見ておつた全国の漁業者の諸君は、非常にびつくりしたと思うであります。

われわれはどうしてもこの事情を明らかにし、追究すべきは追究し、そうして韓国の暴戻きわまりない態度に対して、あくまでその非をたださなければならぬと思うのであります。適当なる機会に外務大臣なりあるいは保安庁の長官なりをこの席に呼んでいただいて、徹底的にこれを追究していただきたい。そのことを委員長にお願いをしまして、私の質問を終ります。



前略と後略は省略、旧字は新字に変換、誤字・脱字は修正、適宜改行、
漢数字は一部アラビア数字に変換、一部括弧と句点を入れ替えています。
基本的に抜粋して掲載していますので、全文は元サイトでご確認ください。