岡山大学事件 2/2

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昭和44年04月18日 衆議院 法務委員会
[042]
民主社会党 岡沢完治
この一問で終わりますけれども、昨日来本会議でも問題になりました、今月12日の有本警部補の死亡事件に関連して、警察当局としては、この事件の発生の真の原因はどこにあるということを考えておられるか、その真因についての国家公安委員会委員長としての側からの御答弁を求めます。

[043]
国家公安委員会委員長・行政管理庁長官 荒木萬壽夫
これは枚挙にいとまない諸原因があり得ると想像されますが、直接的なことは、本会議でも申し上げました、すなわち、一つには、さっき御質問のありました課題について、大学当局が法の命ずるところに従って大学全体のために、国民のために誠実にその義務を果たすということがないことも、相当の原因になっておるであろう。

さらにまた、学生の自治会活動というものはおよそ警察問題とは無関係でございまして、正常な学生運動である限り、警察が何ら関与すべき立場ではない。しかし、実情が、学生の自治会活動の名に隠れて、政治的な意図をもって、革命的な意図をもって、言論だけならば別問題といたしまして、具体的、集団的行動を通じ暴力を伴うところの不法行為を続発せしめておる、その学生運動、自治活動それ自体の脱線ぶり、そのことも、当然学内において学長以下管理運営の責任者が、自治会活動の脱線に対しまして指導助言、たしなめる、アドバイスをするというやり方で脱線しないようにする努力がなさるべきであるにかかわらず、むしろ傍観しておる。たまたまそのことをなせば、ゲバ棒をふるってお礼参りに来るというかっこうにおじおそれまして、なすべきことをなしていないひきょうなことも、原因の一つではなかろうか。

そういうことを考えるのでございまして、本来は教育的課題として処理さるべき諸問題に対する適時適切な教育的配慮が欠けておることと、自治会活動それ自体の、外部勢力とも結んだような、あるいは外部勢力に使嗾され、あるいは指図されながら動いておるかとも察せられるような、本来の学生活動とずいぶんかけ離れた要素も、また原因の一つではなかろうか。

しかもいわんや、昨日も申し上げましたように、投石すれば、当たれば死ぬかもしれぬ、警察官が死ぬかもしれぬ、学生が死ぬかもしれぬ、教職員も死ぬかもしれぬ、あるいは外部の人のたまたま学内におる者にあたるならば死ぬかもしれない、というほどの凶器と考えられるものを投げつけることを平然としておる。仄聞しますれば、岡山大学の例で、現地の新聞には、その投石等をしました学生とおぼしき者が、有本警部補が死んだのは犬が死んだと同じだという感想を述べたという記事が出ておるやに承知をいたします。

さような問題についての認識、意識というものが、およそ最高学府の学生らしからざるところまで堕落しておる。これはそういうふうなことを放置するような教育の場の大学の管理運営の責任者たる立場においての努力の不足の結果がしからしめるということ、重複するようでございますけれども、それらの厳粛さが欠如しておることが、直接的な最大原因であろうと私は理解いたします。



[048]
公明党 山田太郎
先ほど大臣のことばの中にもありましたが、この岡大の中に掲示板が出ております。そしてその掲示板の中に「一警官の死の意味は何か」という表題で、「この警官の死は、人間の死としてでなく、生物学的な意味しか持たないのではなかろうか」というような表現をしておるのであります。全く一部の学生とはいいながら、この暴力的な学生のあり方にはあくまでも反対し、これは一般学生のためにも、また一般国民のためにも、当然正常な人間に立ち返らしていかなければいけない。これは理の当然だと思います。





昭和44年04月18日 参議院 本会議
[004]
自由民主党 西田信一
私は、自由民主党を代表いたしまして、去る4月12日、岡山大学学長の告発に基づく学内暴力傷害事件の学内検証、捜査の公務執行中、岡山県警、有本宏巡査が、学生の投石を頭に受け、ついに殉職された痛ましい悲しむべき不祥事件、並びに大学紛争をめぐって日に増し激化する最近の学生暴力について、佐藤総理並びに関係各大臣に対し緊急質問を行なおうとするものであります。

質問に入るに先立ち、私は、狂暴なる学生暴力のためにとうとき一命を失われた前途有為の有本宏巡査の痛ましい犠牲に対し、深く哀悼の意を表し、心からその御冥福を祈りたいと存じます。

昨年9月の日大紛争における西条巡査部長の殉職事件に引き続き、わずか半年の間に2件に及ぶこのような不祥事件を惹起いたしましたことは遺憾しごくであります。法治国家において、このような事態の発生は絶対に許さるべきではありません。(拍手)特に理性と良識の府であるべき大学において、繰り返しこのような不祥事態が生じたことについて、総理大臣はどのように考えておられるか、まず、その所信を承りたいと存じます。

私は、文部大臣から本事件の経緯とその事実について報告を求めるとともに、その真相についてお尋ねをいたしたい。

岡山大学では、一部教官は、学園の秩序維持にき然たる態度をとらないのみならず、正常化への警察官の協力に反対し、あるいはまた、「警官に守られた入試に協力できない」、かくのごとき声明をも行なっておるというが、これが事実であるのかどうか。これが事実であるとするならば、このような教官の姿勢が学生の暴力を横行させ、今次事件発生の原因をなしていると思うが、文部大臣はどう見ておられるか、お聞きをいたしたい。

言うまでもなく、国立大学は、人材の養成と学問研究のため、国民の血税からなるところの多額の国費によって設置されているものでありまして、東大のごときは、その額、実に1日8000万円に及んでおるのであります。これら国立大学に国の給与を受けて勤務しておる教官の中に、近時容認しがたい言動をなす者が増加している事実を指摘しなければなりません。京大井上教授は、反代々木全学連に激励文を送っておる。あるいはまた、革命的暴力学生集団に向かって激励演説を行ない、最近は京大に反体制講座を開設しておるという。のみならず、事件発生後の岡山大学において暴力学生を扇動する行動があったと報ぜられております。また、井上九大教授は、テレビを通し、あるいは天下の公器たる報道機関を通して、公然と政府に挑戦し、徹底的に文部大臣と戦うことを国民に向かって宣言をし、はなはだしきに至っては、「警察は大学の敵である」と、驚くべき言動をあえていたしておるのであります。いやしくも国立大学教官の国家組織の破壊を目的とするかかる言動が放任されて差しつかえないものかどうか。なぜ、文部大臣は、厳然としてかかる教官を罷免できないのか、その理由を承りたいのであります。

捜査当局は、今回の警官死亡事件を殺人事件として扱っており、荒木国家公安委員長は閣議において、「かかる凶器を持った殺人的人物が学生として取り扱われていることに疑問がある」、このように発言されております。日大における西条巡査部長を死に至らしめた学生をはじめ、刑事事件に問われて起訴された数100に及ぶ多数の学生に対しても、いまだ大学当局の処分が行なわれたという事実は聞いておりません。文部大臣は一体これをどのように受けとめておられるのか。さらには、暴力学生が不法なる施設の破壊を行ない、国家にばく大な損害を及ぼしておるこれらに対するところの賠償責任は一体どうなっておるのか、明確に文部大臣からお答えを願いたい。

次に、法務大臣に伺います。

学生暴力事件の処理状況はどうなっておるか、西条巡査部長致死事件容疑者の審理状況は一体どうなっているのか。さらにまた、今回の有本事件の捜査の方針、近時、人民裁判にまで発展をしておる過激な学生集団暴力の横行に対する今後の対策等について、法務大臣と国家公安委員長の所見をお聞きいたしたいと思う。

岡山大学の事件は、単に同大学のみの特殊な問題ではありません。現在わが国の大学紛争の共通の基盤に立つところの問題として理解しなければならないと考えられるが、文部大臣は、大学紛争のよって来たる基本的な原因及びその背景について、どのようにその実態を把握されておるか、お聞きをいたしたい。さらにまた、今次の事件について、大学当局に対して具体的にいかなる措置をとられたのか、今後の対策とあわせてお答えをいただきたいのであります。

思うに、大学紛争そのもののよって来たる原因の究明、大学制度の根本的な改革等につきましては、慎重、周到な答弁を要するといたしましても、いやしくも、わが国の最高学府たる大学において、過激な学生の暴力行為が横行し、これに対し大学当局が何ら責任ある措置を講じようとしない今日の事態というものは、何としても異常であります。一般国民の間に、文部当局は大学に対して寛容に過ぎるのではないか、指導監督が手ぬるいのではないか、などの疑問を抱くものが多いのであります。また、今日の事態を招いた責任の一半は、文部当局の優柔不断にあるとの手きびしい批判の声さえあがっております。ゲバ棒をかつぐ学生の集団行動が公然と街頭において行なわれて、これが放任されておることについても、治安上国民は割り切れないものを感じており、わが国の民主主義と国家存立の基盤そのものを危くするのではないかと憂慮されるのでありますが、理由のいかんを問わず、このような暴力行為は早急に根絶させねばならないと考えるが、総理大臣の確固たる所信を承りたいと思います。

さらに、この問題と関連して、せっかく入学試験を実施して新入生を迎え入れながら、入学式に乱入して妨害が行なわれ、さらに暴力学生の施設占拠等によって新学期の授業開始のめどすら立っておらない。しかも、何らなすところなく新入生に自宅待機を命じている大学が数10校にも及んでおります。善良なる学生就学の権利を奪い、父兄並びに社会に重大な不安を与えていることは放置できない問題であると私は思う。文部省はいかなる措置を講ずるつもりか、この問題についても明確にお答えいただきたいのであります。

大学紛争は、学内から学外における政治闘争に発展しつつある。騒乱罪の適用を見るに至った新宿事件をはじめ、集団暴力行動は次々とエスカレートしつつあります。彼ら全員がヘルメット、軍手に身を固めて、その用いる凶器も、角材、石塊、鉄棒、鉄やり、火炎びん、劇薬、爆薬など、ますます兵器的な要素を加えて、大学を占拠する革命闘争は社会的秩序にまっこうから挑戦し、その戦術はますます強烈先鋭の度を加えております。

さらに、ここに注目をしなければならないことは、個別的学園紛争から全国の大学を結ぶところの集団的闘争に移行しつつあることであります。来たる4・28沖縄記念日を中心として全学連、労働者、高校生を結合する大規模かつ同時多発的な騒乱計画が立てられており、さらに外相の訪米阻止、ASPAC粉砕、首相の訪米阻止等、1970年を目ざし、ますます活発化の様相を濃くいたしているのであります。治安当局はこのような情報をどのように把握されておるか、お答えを願いたい。

長期化し、かつ激化する暴力学生集団の多額の資金源は一体どこに求められておるのか。今後これら国家組織の破壊をねらうところの過激派学生の暴力に対してどのような方針で臨まんとしておるのか、法務大臣、国家公安委員長の所信を承りたいと思います。

次に、一昨年の第一次羽田事件以来、学園内外における学生の暴力行動による警察官の負傷者はおびただしい数にのぼっております。治安出動の状況、負傷者の数、重傷による入院加療の警察官、あるいは後遺症のため職場復帰不能の警察官、これらはどういう状況にあるのか。これら負傷者に対する見舞い、家族の援護等は一体どのように行なわれておるのか。また、殉職警察官に対する弔慰、褒賞、遺族補償などは遺憾なき措置がとられておるかどうか、国家公安委員長からお答えを願いたいと思う。

国民の生命財産を守り、社会秩序維持の任務を有するところの警察官にこのようなおびただしい負傷者や犠牲者を出しておる反面、大学当局みずからが紛争を処理しようとする自覚と責任感を欠いて、かえって警察を敵視する言動すら行なわれておる。このことは、国政の任に当たるところのわれわれといたしましても、まことに申しわけのないところである。このようなことにより、警察官全体の士気に影響を与えることがあっては由々しい問題であると思うが、その心配はないのか。佐藤総理大臣並びに国家公安委員長からお答えを願いたいのであります。

最後に、総理の決意のほどをお聞きいたしたい。

いまや最も急を要することは、いかにして大学の管理体制を確立し、破壊的集団暴力を排除して学園の秩序を回復し、すみやかに国民の信頼と期待にこたえるかということであります。もはや政府は、重大な決意をもって対処しなければならない段階に来ておると思う。法と秩序の維持とを重大政策とするニクソン米大統領は、去る3月23日、学園の暴力排除に関して重大声明を行ないましたが、その内容は、学園の秩序維持に対し、裁判所、大学当局のき然たる態度を要請するとともに、不法学生については、除籍を含む厳正なる処分の実施を求めるものであって、目下米18州においてそれぞれ立法措置が講ぜられておるのであります。現下わが国内の現状にかんがみ、国家将来を思うとき、政治の最高責任者たる佐藤総理大臣の責任は重いと思う。佐藤総理大臣の強いリーダーシップと決断が強く望まれるところでありますが、はたしてどのような佐藤総理の決意があるのか、具体的措置をどのようにとられようとしておるのか、国民の前に決意を明らかにされんことを希望いたしまして、私の質問を終わります。(拍手)

[005]
内閣総理大臣 佐藤榮作
答弁に入りますに先立ちまして、有本警部補の殉職につきまして、心から哀悼の意を表し、御遺族に対しましてお見舞いを申し上げる次第でございます。

昨日も衆議院におきまして申し述べたとおり、大学構内における学問の自由とは全く無縁の暴力が横行し、しかもそれが長期間放置されてきたところに問題の根源があります。私は、民主主義体制を維持することは国民すべての願いであることを確信し、き然として暴力はきびしく排撃する、そうして社会秩序を守り抜く決意であります。

現在の大学は、一般社会と切り離してこれを考えることは許されません。大学も教師も学生も、それ相応に社会に対して責任を負っており、何人もその責任を免れることはできないのであります。学生だからといって無軌道な暴力を放任することは、やがてわれわれの血と汗の結晶である民主主義国家を根底からくつがえす結果となりかねないのであります。国民各位はこの点をしっかりと認識され、それぞれの分野で暴力を否定する、排撃するその機運を盛り上げていただきたいと念願いたしております。政府は、当然、その責任におきまして、治安の維持にあたりましては、尽くすべきを尽くし、社会不安を一掃して、国民各位の期待にこたえる決意であります。

大学は、本来、学問をするところであって、暴力とは無縁なところであります。その大学におきまして暴力事件が発生した場合、これを取り締まるのは警察の本来の任務であります。今回の有本警部補の殉職事件によりまして、第一線の警察官は、民主主義を守り抜くというその職責の重大さについての自覚を新たにし、その士気はますます高揚していると聞いております。国民の皆さまも御安心をいただきたいと思います。大学当局者は、その管理責任を全うするために常に警察当局と緊密な連絡をとり、学園の秩序維持に積極的に全力をあげていただきたいと思います。私は、他のいかなる手段を用いましても、民主主義社会にまさる理想社会を達成することは不可能であると確信いたしております。この信念のもと、政治の最高責任者としての責任を遂行する決意であります。

現在の学園紛争は、大学が急激な社会の変化に対応できなかったということもありますが、同時にあらゆる既成の秩序を否定する破壊主義、暴力主義がこれに乗じて全国各地の学園紛争をリードしているところに混迷の原因があります。しかも、管理者がこれを放任しているところに、ますます事態を重大化し、悪化させていると、かように考えます。もとより学校制度は、国家百年の計を定めるものであり、進歩する社会に対応し得るよう、慎重に改革をはかっていかなければなりませんが、学園の秩序維持という問題は、学園の自治とともに学校当局者の本来の責任であり、義務であります。そこに学園の自治もあるのでありますから、少なくとも学園を、まずあるべき姿に取り戻すよう努力することが、何よりも肝心であります。どんなりっぱな制度、法令をつくりましても、これを守る気持ちがなければ、仏つくって魂入れずのことわざどおり、教育は文字どおり形骸化することにもなりましょう。学校当局、教師、学生、これが一体となって、学校を学問をする場に戻すことにつきましては最善の努力を払い、しかる後に、何ができて何ができないのかということを見きわめる必要があります。いたずらに政府の介入を忌避したり、おそれたり、そら頼みしたりしては、ほんとうの教育の再建ができるとは私は思いません。もとより民族の将来にとって一番大切なこの問題に対し、政府もまたただ手をこまねいて傍観することは許さるべきではありません。今後積極的に適宜適切に、必要な措置はとりますが、もう一度、国民各位に対して現在の学園紛争問題を、自分自身の問題として真剣に考えていただくよう心からお願いいたすものであります。私は、今日当面する政治課題でこのくらい重大な課題はない、かように思い、ただいまこれが対策に心を砕いておる次第でございます。皆さまの御協力をこの上ともお願いいたします。(拍手)

[006]
文部大臣・科学技術庁長官事務代理 坂田道太
岡山大学におきまして、学生の暴力によりまして、とうとい人命を失うようなまことに不幸な事態を惹起しましたことに対しまして、文部大臣として責任を痛感するとともに、故有本警部補並びに御遺族に対しまして心からおわびを申し上げる次第でございます。

この岡山大学における経緯でございますが、岡山大学では、昨年9月以来、校内での学生逮捕事件に端を発し、道路上にバリケードを構築、全学授業放棄、施設の占拠、封鎖など、紛争が続いておりましたが、本年に至りまして、一部学生により、2月15日学生課長、2月25日教養部教官に対する集団暴行傷害事件が発生をいたしました。岡山大学長は、3月31日、2つの暴行傷害事件について学生10数名を告発をいたしました。4月の12日早朝から岡山県警は告発に伴う強制捜査を実施をいたしましたが、学生約150人は警官隊に激しく投石をして執行を妨害いたしました。その際、学生の投石により警察官多数が負傷をし、そのうち、有本巡査が頭部に直撃を受けて重傷を負い、同夜死亡されたわけでございます。

この背景でございますが、大学といたしましても、また国民といたしましても、受験者といたしましても、非常に大事な入試を実施いたします際に、岡山大学におきましては、これに対しまして、警察官に守られるような入試は協力をできないという声明を発表いたしたことは、御案内のとおりでございます。警官に守られなければやれないようなそういう大学自体が自主性を失っておるにもかかわらず、そういう国民的責任、大学人としての責任というものを果たさないで、そうしてそのような非協力の態度を示すというようなこういう考え方の教官が大学人の中におるというところにも問題があるわけでございまして、いわゆる警察官アレルギーで大学の教官がこのような入試実施に非協力の態度をとるということは、私は許されないことだと思うのでございます。今回の事件は、このような警察アレルギーの影響から、大学当局が学内の暴力行為にき然たる態度を示さず、長期間これを放置していたことに根本原因があると私は考えるのでございまして、このようなことが起こらないように十分今後とも強い指導をいたしてまいりたいと存じております。すでにこのことにつきまして、岡山大学に対しても勧告をいたしておるわけでございます。

また、両井上教授の暴力学生を支援する言動についてのお尋ねでございますが、しばしば私はこの参議院におきましても申し上げておりまするように、国立大学の教官が、学生の暴力行為を容認し支援するがごとき言動を行なうということが伝えられておるわけでございまするが、これはまことに遺憾なことでございます。これらの行為が、しかしながら国家公務員法等の法令に触れるかどうかは、人事院等の関係機関とも協議をして、さらに検討をいたしておるところでございますが、少なくとも、これらの法令の精神から、国家公務員として、また、教育者として妥当な言動ではないと考えております。

国立大学の教官の懲戒等の処分につきましては、教育公務員特例法の定めるところに従いまして、大学管理機関がこれを審査することになっておるが、大学当局に対しましては、文部大臣として、適切な措置をとるよう、十分指導強化をしてまいりたいと思っております。しかし、教育者としてあるいは大学の管理者として、あるいは国家公務員として、国民に対する奉仕、全体の奉仕者であるべき人が、法令に触れないならば何でもやってよろしいかというところに、私は、問題があると思うのでございまして、最高学府の教官たる者は、むしろ一般社会市民よりも高いモラルというものが要求をされ、それが前提となって、今日のような教育公務員特例法上の恩典があると思うのでございます。しかるに、このような恩典を忘れまして、一般市民社会において、通常常識では考えられないような言動、行動をするということ、ここにこそ今日の学生問題の真因があるのであると、私は思うわけでございます。(拍手)このことは、やはり広く一般国民自体の御協力を願いまして、国民の常識をもってやはり批判をするということこそ、私は、教官にき然たる態度を取り戻させ、あるいは良識を取り戻させ、そうして大学管理に対しましても、き然たる態度をとることができるようになろうかと思う次第でございます。

大学は、教育上必要があると認めるときは、教育の手段として、学生の懲戒処分を行なうべきことは当然でございます。特に大学の内外を問わず、秩序を乱した学生に対しましては、大学は、これらの学生を教育するという社会的責任からも、その学生としての責任をきびしく追及し、必要な懲戒処分を行なうべきであると考えます。

従来、ともすれば大学が学生の暴力をおそれるあまり、処分の実施をちゅうちょし、あるいは適正を欠き、そのことが学生の暴力行為をさらに激化させる一因ともなっていることにかんがみまして、今後大学が必要な処分を厳正、かつ的確に行なうよう、各大学に対し、強く指導してまいりたいと思います。

なお、岡山大学におきましては、今回の事件に関し、厳正な処分を行なう決意を表明しております。また、東京教育大学におきましては、自治会の委員長と副委員長とを無期停学の処分にいたしましたことも、あわせて御報告申し上げておきます。

現在の大学紛争のよって来たる基本的な原因につきましては、ただいま総理大臣からお答えになったとおりでございますが、今日、学生数あるいは量が拡大し、あるいは質的にも変化し、学生の意識が変化し、あるいはこれに対して大学当局が対応できなくなった、社会的要請に対してこたえられなくなってきた、るるございますけれども、やはり何と申しましても、一部狂暴な、暴力でもって自分たちの政治的主張を貫こうとする、そして大学を拠点としてこれを行なう、こういう野望を持つ学生によって、今日の紛争がエスカレートしているというふうに認めざるを得ないのでございます。したがいまして、これに対しましては、ただいま申しましたように、まず第一に、大学人みずからが、き然たる態度でもって、この国民的課題にこたえるということが、私は第一だと思うのでございます。なまぬるいというおしかりも、当然私も甘受いたしまするけれども、しかし私は、やはり大学というところは、どこどこまでも権力的なやり方でなくて、やはり自主的なやり方を待つというととが第一義かと思うのでございます。しかし、どうしても第一義的な、そういうような自主的期待にこたえ得ないような状態に至った場合におきましては、何らかの強い措置をとらざるを得ないことを申し上げておきたいと思う次第でございます。

入試を実施し、新入生を迎えながら、暴力学生の占拠等によって、授業再開の見通しを持たず、自宅待機をしている学校についてのお尋ねでございますが、許可をしたまま授業開始がおくれておる大学は相当数ございますが、新入生を自宅待機等の形だけで放置しておくことは、単に授業がおくれるばかりではございません。新入生にさまざまな悪影響が及ぶことも考えられますし、父兄等に非常に不安な気持ちを与えるのでございますから、文部省といたしましては、さきに、7日行なわれました学長会議におきましても、一日も早く紛争解決をし、教育を正常化し、そしてやはり文部当局とともに、秩序回復をはかり、かつ教育の正常化にき然たる態度でもって臨んでもらいたいことを、強く指導、説示いたした次第でございます。

こういうぐあいに、学生の投石により機動隊員の死を招き、あるいは自衛官の入試を拒否する、あるいは大阪教育大学等に見られるように柏原課長の人民裁判みたいなことをやる、あるいは国有財産の破壊、たとえば、東大のごときは、これは4億5000万円以上も損壊する、あるいは東京教育大学がもう長い間授業を行なわない。こういう事実は、結局、何が原因かというならば、大学人の暴力に対するき然たる態度の欠除と言っても過言ではないと、私は思うのでございまして、大学は、先ほども申し上げましたように、本来理性の府として、それにふさわしいモラールのゆえに、その自治が社会的に認められてきたわけであります。しかし、いま、みずからは理性の府からすべり落ちていながら、大学の自主性尊重を叫んでおるのです。大学の自主性は大学人の社会的責任を伴って初めて主張できるものであり、上記の諸事実から考えまして、はたして大学人が暴力学生に対する規制、大学の運営について、その社会的責任を果たしておるかどうか。私は、これにつきまして、今日まであらゆる機会を使って指導、助言をしてまいりましたけれども、国民の期待、あるいは国民に対する私の責任が、もしどうしてもこの指導、助言というようなことによって果たせない場合におきましては、ある程度の強い措置を考えざるを得ないことを申し上げて、御答弁にいたしたいと思う次第でございます。(拍手)

[007]
法務大臣 西郷吉之助
お尋ねの第1点でございますが、学生暴力事件の処理状況についてお答え申し上げますが、検察庁におきまして、本年1月以降現在まで発生いたしました学生暴力事件の処理状況は、検察庁で受理をいたしました学生総数は2111名でございまして、それに対しまして勾留請求をいたした学生数は1565名でございます。なお、このうち勾留の容認されたものは1187名と相なっております。なお、今日まで処分済みの学生の総数は1048名でございまして、その内訳は、起訴されました学生は692名、家庭裁判所に送りました者154名、不起訴と相なりました者202名でございます。なお、そのほかに現在捜査中の学生の総数は1063名の多きに達しております。

次に、西条巡査部長致死事件容疑の審理状況という御質問でございますが、これに対しましては、東京地検においても、西条巡査部長の殉職事件につきまして、警察と協力いたしまして、警察から送られてまいりました被疑者10名の送致を受けまして、捜査の結果、そのうち9名を公務執行妨害並びに傷害致死で東京地裁の公判を請求いたしておりまして、なお少年1名を東京家裁に送致いたしております。なお、公判請求いたしました9名につきましては、目下東京地裁で審理中でございまするが、そのうち1名の被告については分離いたしまして、去る4月4日懲役2年6カ月執行猶予2年の判決を受けております。

第3点といたしまして、有本事件の捜査の方針いかんという問題でございまするが、この事件はきわめて重大な事件であると思います。検察庁におきましても警察と緊密な協力のもとに、全力をあげまして本件の捜査処理に当たっておりまして、現在岡山地検におきまして公安係検事を長といたし、そのほかに専属の6名の検事をこれに配置、さらに検察事務官13名をもちまして岡山大学事件特別処理班を編成いたしまして、万全を期する体制で現在努力しております。

次に、お尋ねの最近の学生集団暴力の横行に対する今後の対策いかんという点でございまするが、ただいま文部大臣もいろいろお述べになりましたが、最近各地におきまして学生による集団暴力事件が相次いで起こりましたことはまことに遺憾しごくに存じます。いま文部大臣も言われましたが、このような学生による暴力を徹底的に排除いたすためには、いろいろ問題があると思いますけれども、かような学生による集団暴力が大学という特殊の地点に根拠を置いてやっておりますので、私は、この際、学生暴力集団の排除のためには、その大学当局がき然たる態度をもって臨むことが一番大事ではないかと考えております。法務当局といたしましても、これらの集団学生暴力事件に対しまして鋭意努力をしてまいっておりまするが、今後ともこの学生集団暴力に対しましては、暴力絶対排除の見地から強い態度をもってこれに臨む所存でございます。

次には、いわゆる4・28沖縄闘争を中心としての学生の集団暴力活動に対する情報はどうかという点でございますが、御指摘のように、最近の暴力集団はますます激しくなり、かなりの資金を擁しておると思うのでございまするが、この4・28沖縄闘争に関する情報ももちろんつかんでおりまするが、その他多数の情報がございますけれども、なお現在の情勢では、その情報もきわめて流動的でございますので、今後さらに的確なる情報をつかみまして、万全を期してまいりたいという考えでございます。

さらに暴力学生集団においては多額の資金を使っておるが、その資金源はどうかというお尋ねでございまするが、いわゆる暴力学生集団の資金源につきましては、彼らの団体内部におきましても極秘にするというような慎重な態度でございまするから、的確にその全貌をつかむことはきわめて困難ではございまするが、その中で、おおむねその団体加盟の加盟費あるいは機関誌等の出版物の売り上げ代金、あるいはその他各種のカンパが大体の基本財源のようでございまするが、最近におきましては、個人または特殊の団体からの支援、寄付等も仰いでおるような傾向が強く見受けられるのであります。

さらにお尋ねの、この過激学生の暴力に対してどういう方針で臨むかという点でございまするが、これらの多数の各地に起こっておりまする学生による暴力行動に対しましては、まことに遺憾しごくであり、法務当局といたしましては、法秩序維持の立場から、今後ともかような過激な学生暴力集団に対しましては、この鎮圧のために全力をあげてまいりたい所存でございます。(拍手)

[008]
国家公安委員会委員長・行政管理庁長官 荒木萬壽夫
お答えを申し上げます前に、私もまた治安当局の責任者といたしまして、前途有為な有本警部補の殉職に対しまして、まことに残念しごく、惜しい人をなくしたと、つつしんで冥福を祈り、さらにまた、全国各界から寄せられました御同情に対しまして、この席を拝借して厚く御礼を申し上げます。

すでに総理大臣その他からお答えがございまして、重複する部分もございますから、なるべく重複を避けまして、治安当局の立場からお答えを申し上げさせていただきます。

まず第1に、今度の岡山大学事件の背景、原因ないしはそれに対する対策、総理から総括的にすでにお話がございましたが、私の立場に立ちましてお答えを申し上げさせていただきます。岡山大学におきましては、昨年9月17日より過激派学生によるバリケード封鎖が行なわれており、その後、これらの学生の暴行は、次第にエスカレートしていたのであります。そのため、卒業式も中止のやむなきに至ったばかりじゃなく、今年2月15日には学生課長が、また3月25日には教養部長事務取扱が、暴力学生によって暴行を受けるという事案まで発生したのでございます。したがって、大学当局もようやく、3月31日に至りまして、これら教職員に対する暴力事案についての告発を赤木学長名で行ない、岡山県警察ではこの告発に基づきまして、逮捕状、捜索差押令状、検証令状を得まして、去る4月12日、学内の強制捜査を実施したのでございます。

御存じのとおり、有本警部補の殉職事案は、この強制捜査を妨害しようとした暴力学生の投石によって引き起こされたものでありまして、このような事態となりました原因につきましては、いろいろな問題が伏在しておることは、申し上げるまでもないところでございますが、当面特に重要な原因としましては、すでにお話も出ましたように、この際指摘される問題といたしまして、大学の自治や学問の自由と何のかかわりもない、しかも有害な過激派学生の暴力を長期間放任してきた岡山大学に限らず、全国のあまたの大学当局の姿勢であると考えるのであります。

すなわち国立、公立の大学について申せば、「官吏又は公吏は、その職務を行なうことにより犯罪があると思料するときは、告発をしなければならない。」という刑事訴訟法第239条が公務員に課しておりますところの告発の義務をすら履行しないでまいっておるのであります。国民からその管理を付託された大学施設が、暴力学生によって不当、不法に占拠されても、それを排除して国民に対する責任を果たそうともしない。さらにまた、警察官等に当たったならば死に至るであろうという殺人的な投石その他の暴力行為をあえてした学生の処分もしないままに、これらの暴力学生を放任してきたということでございます。このような大学当局の姿勢が、過激派学生の暴力行為をエスカレートさせたところの最も重要な原因の一つであると存ずるのであります。

したがいまして、この種事件についての今後の対策としましては、最も必要だと思いますことは、これまたすでにお話は出ましたが、全国の各大学当局が大学管理者としてなすべきこと、つまり犯罪の告発、学内における不法占拠等に対する退去命令等の措置、警察活動に対するアレルギー症をなくした立場からの協力、暴力学生に対する処分等の諸措置を的確に行なってもらうことによりまして、暴力排除についてのき然たる態度を示してもらうということであります。そして同時に、総理のすでに答えられましたとおり、国民一般、各界各層におきましても、暴力許すまい、不法行為を許すまじという国民的信念を議会制民主主義の根底をつちかう意味において、もっともっと高めていただくという背景のもとに、警察の責任も行なわさしていただきたいと念願するものでございます。(拍手)

なお、申すまでもないことでございますけれども、本来警察は、最高学府といわれる大学とは無関係であるべきものであります。何にも問題がないのに、のこのこ出ていくなどという警察権の越権行為は法律上許されない、あくまでも法の命ずるところに従いまして、法の範囲内において不法行為があるとしますならば、当然に大学といわず、大学の内外を問わず、あるいは町の問題にいたしましても、あらゆる不法行為に対しましては、あらかじめこれを予防し、あるいは制圧し、あるいは犯人を逮捕し、ということで国民生活を守り、大学を守るという立場であることは申し上げるまでもないことでございますが、とかく大学アレルギーなどということが、いかにも民主的な進歩的な発言であるがごとく誤認されているやにも懸念いたしますので、あえてこのことを蛇足ながら申し添えさせていただきたいと思います。

第2番目には、今回の事件の捜査の方針、考え方、人民裁判まで発展している問題もあるようだが、そのことについてどう考えるか。このことについては、すでに法務大臣からもお話がございましたが、有本警部補殉職事件は、暴力学生の投石によりとうとい人命が失われたきわめて重大な事案でございますので、殺人事件として捜査いたしております。岡山警察では、当時現場にいた警察官、大学教職員、学生などの目撃者の取り調べや現場写真などの証拠の検討を行ない、県警の全力をあげて犯人を検挙すべく鋭意捜査を進めているところであります。

また、先般の大阪の教育大学の問題につきましても同様人権がじゅうりんされ、自由に対する侵害的事案が起きておりますので、これに対しまして、刑事訴訟法の規定により、告発義務を課せられている教官からの告発もございませんけれども、捜査協力もむろん得られませんけれども、当初の捜査は難航したにもかかわらず、これについても警察の職責を果たすべく全力を尽くしておるということをお答え申し上げます。

第3番目に、70年を目ざしまして活発化した様相を呈しておる、このような事案についての考え方、これは法務大臣から万々お答えがございましたから、重複を避けまして、お答えすることを省略さしていただきます。

一昨年の第一次羽田事件以来の治安出動の状況等、負傷者、重傷者の入院加療その他の問題についてのお尋ねでございますが、第一次羽田事件から現在までに、警察が治安警備に出動した件数は、約1万9000件でございます。これに出動した警察官数は、延べ200万名をこえておるのであります。このうち相手方の投石、角材、火炎びんなどによって負傷した警察官は、殉職者が2名、これを含みまして1万205名に及んでおります。(発言する者多し)

さらに、このうち11名は頭部の打撲、頸骨骨折などの重傷により、現在もなお入院中であります。

なお、後遺症が残り、執行務に支障のある者につきましては、職場復帰訓練を施し、軽度の作業に配置がえをさせるなどの措置をとっておるのでありますが、今後さらに、このたび建設されることとなっておりますリハビリテーションの施設の運用とあわせて十分に配慮してまいる所存でございます。

以上、重複を避けまして、私の関係する立場からお答えを申し上げる次第であります。(拍手)



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